『失敗作、失敗作って変わる努力もしてないくせに偉そうに言ってんじゃねーよ。それとも僕が成功品とか言われてそれで幸せとでも?僻みも大概にしてくれ』

零がセカンドに向けて手のひらを向けて腕を伸ばす。

『作られたこの人形みたいな顔も体も大っ嫌いなんだよ!』

零の回りが凍ったようなオーラに包まれたかと思えば空気中に一瞬にして氷の刃が無数に作られ銃弾のように一気にセカンドに放たれた。
セカンドはハッして腰から今一度植物のツタをはやし氷の刃を撃ち落とすが氷の刃の方が数も多く頬を、腕を太股を服を切り裂いていき、最後大きな塊の氷が腹部にヒットするとセカンドはガハっと腹をおさえて地面に叩きつけられた。


『ヘドが出るほど大嫌いだけど、これが僕。紛れもない僕。変えようのない僕自身だ。自分自身を受け入れて前に進むしかない。それは僕に限らず。この世に生まれた落ちたみんながそれぞれ背負う宿命だ。ちゃんと自分自身を見つめて受け入れて進めば未来だって変わる。その道のりは厳しいし死にたくなるくらい辛い時もある。人によってその降り幅の大きさもまちまちだ。それでも僕は、辛くても嫌いだけど、幸せになりたいから犠牲も払って自分の運命を受け入れて光の無い自分の未来を変えようって必死なのに。それなのに』

零はジリジリ、腹を抱えてうつむき苦しむセカンドに近づく。


『ムカつくんだよ。何も努力もしないで最初から辛いからって逃げて諦めて現実見ないで卑屈になって気取って。逃げたらそりゃ楽さ、悲しい思いしなくて済むし、でもずっとそのまま。その場所にしかいれない。そんなダサい人生過ごしたくないなら、歯をくいしばってこんな所じゃなくて自分自身と戦えよ、背負った宿命を変えたいならもがいて足掻けよ、そして掴めよ。幸せは、幸せになるために努力したやつにしかこない。』



零は膝をついてスッとセカンドに手を伸ばした。

『セカンド、こっちに来いよ。一緒に人間になろう。なれるよ、僕も戦うからさ』

『ゼロ……』

セカンドが少し考え迷いながらゆっくり零の手をとろうとしたときだ。




『やっぱり監視していてよかったねフォース』

『そうだね、サード』


セカンドと零の間を裂くようにドロドロとした淀んだ緑の液体が飛んできて零はあわてて後方に回避する。

液体がかかったグラウンドはまるで硫酸をかけられたように溶けていく。
零は液体が飛んできた方向を睨んだ。それにつられて学も零と同じ方を見る。

『サード…フォース!』

そこにいたのは真っ白の長髪をポニーテールに結び金の瞳をした双子の見た目は13才くらいの美少年。身長は小さめな零よりも五センチほど低いかもしれない。
そしてセカンドと色ちがいの白のチューブトップに白のホットパンツに白の編み上げのブーツ。
もちろん絶対領域は欠かせない。いずれも露出の激しい衣装をまとっている。

フワフワの金色の大きな尻尾と獣の耳。さながら狐のようだ。
その双子は鏡に映したような同じ顔、同じ体型、唯一違うのは
サードと呼ばれる少年は右耳に大きな赤い丸のピアス。フォースと呼ばれる少年は左耳に大きな青色のピアス。


『ファイブ様の言う通り、セカンドはバカだから見張れって言われて言う通りにして正解だったねサード』

フォースはぎゅっとサードの腕に抱きつく。

『そうだねフォース。あーあー、セカンド。また服汚しちゃって。ファイブ様にお仕置きされるよ』

サードがそういうと途端にフォースはモジモジしはじめ目をとろんとさせる。

『お仕置き……ファイブ様のお仕置き…いいなセカンド……僕も悪いことしたらお仕置きしてもらえる?』

『ダメだよフォース。そんなことしたら暫く僕放置プレイするからね』

『あ!それは嫌だ!』

フォースは尻尾を耳をピンと立てて首を横に振った。


『セカンドのことはひとまずファイヴ様に報告‥‥と。』

するとサードは茫然とするセカンドのところに歩くとストンと首の後、頸椎を狙ってチョップするとセカンドはドサッと気を失ってしまった。

『さあゼロ、おとなしく一緒に帰った方がいいよ?』

サードは不敵に微笑みながら話す。零はフンっと鼻を鳴らす。

『やだね。手足バキバキにされても絶対帰らない。僕より皆弱いくせにまたやる気?』

零は構えた。するとサードは尻尾をゆらゆらさせながら流し目で零を見て話す。

『そうだね。ゼロ、君は強いよ。僕ら二人してかかったところで君には真っ向ではかなわないだろうね。だからさ‥‥』

次の瞬間そう言ったサードのとなりにいたフォースがダンと踏みだしたと思えば凄まじいスピードで一瞬で学と七緒、龍司の前に現れ次の瞬間七緒の腕を掴み二人から引き離し
ものすごい力で七緒は地面に仰向けに倒されその上にフォースが馬乗りになり七緒の首を左手で絞めて右手の二本指をあてたとおもったら爪がジャキッと延びてその鋭利な爪を七緒の細い首に先をあてる。


『八つ裂き、八つ裂き、八つ裂き♪』

フォースは歌いながら獣のような目がギラリと光り七緒に向けられた。


『フォース、殺しちゃダメ、人質なんだからさ』

サードは小さくフフっと笑った。龍司は『七緒!』と名前を呼び体を起こそうとするが自分の負った傷が深く『うっ』と呻いて膝をつく。学は『龍司!』といって龍司にかけよりキッとサードとフォースを睨んだ。

『さあ、ゼロ、交渉だよ?君が大人しくファイヴ様のところに戻ってくれるなら、あのメガネさんを無傷で返してあげる。でも帰らないっていうなら……分かるよね?』

サードは不敵にニヤリと笑いフォースはニタニタ不気味に笑う。
全く同じ顔の双子なのに性格が笑いかたによく表れている。

『ゲス野郎…!』

零はギリっと下唇を噛んでフォースをキツく睨んだ。

『相変わらず可愛い顔してるのに言葉汚いねゼロ。ほら、早くしなよ。
僕は気が長い方だけど、フォースは常に欲求不満だから…いつまで我慢できるかな?』


『ねえ、ねえ、まだ?まだ~?』

フォースはゾクゾク体を震わせてハアハアと息をあらげて興奮を抑えているようだ、無意識に首をギリギリと左手で七緒の首を締め上げる。

『く……かはっ』

七緒が苦しむ顔をする。龍司は早く七緒のところに行きたいのに自身も傷つき思うように体が動かない。

『七緒、七緒!』

『ダメだ龍司!動いたら傷が!』

学は無理に動こうとする龍司を止める、だが龍司は自分の体よりずっと七緒が心配で七緒、七緒としきりに呼ぶ。


『サード、サード!耳だけ、耳だけいいでしょ!』

フォースはハアハアと興奮しながら半ば蕩けた顔をサードに向ける。

『本当、しょうがない奴だな、片耳だけだよ?それにしてもフォース……僕以外にそんな興奮した顔するなんて…あとでお仕置きだな。』

それにしても、からは一人言をボソッと呟くサードだった。

『片耳、片耳、切ったら何色の血が出るのかな?痛がるのかな?』

フォースは左手で七緒の首を絞めたまま右手の首にあてていた鋭利な爪を振り上げ、七緒の右耳を狙って降り下ろした。

『七緒ーーー!』

龍司の声が響いた時だった。

一瞬の閃光が走った。


『ぎゃああああああああああ!』


その悲鳴は七緒のものではなかった。


『フォース…?』

七緒の上に馬乗りなっていたフォースが倒れた。所々服は焦げて煙がたっている。


ー七緒さんが、危ないって思ったんだ…だからなんとかしなくちゃってー


『学、君は何をしたんだ…?』

ー零が俺のことを目を丸くして唖然と声をかけてきたー

『学………』

ー龍司、なんで悲しそうに俺を見るんだ?ー

『がっくん…』


ー七緒さんも、なんで?ー



『フォーーーーーーーース!!!!』

サードの声が静寂を破った。サードは狂ったように倒れるフォースに脱兎の如く駆けつけ抱き上げる。


『フォース、フォースねえフォース!ああ!フォースフォース、なんてこと…フォース!フォース!ああ!!』

ー狐野郎の1人がもう1人の狐野郎を抱えながら俺を殺気だって睨みつけたー

『ファースト…!貴様ら雷電使いのキメラ、ファーストをかくまってたのかよ!』

ーその言葉で俺はハッと気づくのだった。体中に纏う、大量の電気をー

辺りがバチバチと学から溢れる電流で光る。学自身何が起こったかわからない。

『もう任務なんてどうでもいい!フォースを傷つけたお前許さない‼殺す、殺す!ぶっ殺してやる!』


サードの殺気がさらに濃くなると髪の毛が逆立ちはじめて爪も牙も鋭利にのびて、服も裂けて保っていた人間の姿からドンドン見る面影もなく、顔も体も毛むくじゃらになり

狐そのもの、まるで狐の妖怪となったのだ。

『フォースを傷つけたヤツは誰であろうと許さない‼フォースを傷つけていいのはこの世で僕だけなんだよ!』

化け物と変貌をとげたサードが四つん這いになって学めがけて牙を剥き出しにし突進してきた。

ーなんだよこれ!?ー

バチバチバチバチ!

『ぎゃう!!』

それは高電圧のバリア、学の回りには高電圧のバリアが張って、足を踏み入れたサードは感電しドサッと倒れる。


『まだ、まだだ!許さない、フォースを傷つけたお前を許さない‼』

サードは感電しても尚ヨロヨロと立ち上がろうする。
すると空から声がした。

『お止めなさい、サード。ファーストとゼロ、成功品二人が揃ってる今貴殿方にかなうすべはありません。一旦ひきあげますよ。』

声のする空を見上げた。そこには漆黒の大きな翼を広げ深紅のチューブトップに深紅の長いスカートにはガッツリとスリットが入って白い足と赤い編み上げのロングブーツをちらつかせ。零と同じ色のミントグリーンの髪は膝まで長いストレート。そしてシルバーのベネチアンマスクを覆っていた。
身長は学の顔2つ分低いがスラリと高い。男が宙に羽をはばたかせ浮いていた。

『ファイブ様…』

サードが声を絞り出す。

『ファイブ…変態ジジイ…』

零が睨み付けていった。


『お久しぶりです。ジジイって、僕は貴方の弟ですよ、ゼロ兄さん。しかし相変わらずお元気のようで何よりです。今日は兄さんを連れ戻すつもりでしたが、まさか行方不明のファーストが一緒であるのなら尚更失敗作の上に傷ついた僕らではかないません。また日を改めてうかがいますね。』

『二度と会いに来るな。この変態くそ野郎。』

『相変わらずお口の悪い人ですこと』

パチンとファイブと呼ばれた男が指を鳴らすと巨大なカラスが3羽カーカーと鳴きながら現れてフォースとサード、そしてセカンドをのせて飛び立った。


『それではゼロ兄さん、そしてファースト…ファースト、ずいぶん成長してかっこよくなったね。僕、ファーストほうが欲しくなっちゃったな…』

『ファイブ!』

零が叫ぶ。ファイブはフフっと笑うと風に吸い込まれるように姿をフッと消した。



『一体何だって…ぐ、ぐああああ!』

学が急に胸を抑えて苦しみ出しとっさに龍司を払う。

『学!どうしたんだ!』

するとけたたましい電流がおびただしく学の体から放電される。
『いきなり覚醒して制御出来ないですよ!これじゃがっくんに近づけない、それにこのままじゃがっくんも!』

ー身体中が熱い!血が、血が沸騰する!苦しい、誰か!ー

学はもがき苦しんだ。

『そうか、だから秀一さん、僕をここに……』

そんな放電のなか、動じずに学に近づく人影。それは零の姿だった。

『学、苦しい?』

学は苦しみもがき、地面に倒れるのたうち回る

『学、いま楽にしてあげるね?』

零の細い両手が学の頬を包んだ。

『ファースト……』

唇が再び重なった。
二回目の零とのキス、学はボーッと虚ろな目でそれを受ける。
抵抗する力も無いからなのかもしれない。
ー零の唇、柔らかい…暖かくて…甘い香りがする…ー
みるみるうちに放電は引いていき、そしてもとの静寂が戻った。
そして学はずるっと、気を失ってしまうのだった