『ちっ‼どうせそうですよ‼あーあー、うるさいのいなくなって清々した‼』

最後の授業を終えて学はそそくさと一人で帰ろうと帰路をズカズカ歩く。
学の家は龍治と七緒と三人暮らし。
学園から歩いて15分ほどの住宅街にそびえる二階建ての庭付一戸建てに住んでいる。

元々の悪人面なせいかズカズカと歩きイライラした顔はとても恐ろしく通りすがりの犬の散歩してるご婦人の飼い犬が学を見た瞬間フーーー‼っと威嚇するが学が『あ?』と言って犬を見れば犬はキャインキャインと怖がって飼い主の後ろに逃げ飼い主であるご婦人もガタガタと恐怖で震える。

学が歩けばすれ違う人々はその巨体と人を殺めたような凶悪な形相に恐怖で固まる。

どいつもこいつも‼どいつもこいつも‼

学は足早に家路についた。


理事長である龍治と用務員の七緒はまだ帰っていなく、いつも先に学が帰っている。学は自分の部屋に行く、学の部屋は二階にある六畳ほど部屋。
2メートル近い身長の学には少し狭いが居心地がいい。

窓が一つタンスと本棚、勉強机が1つずつ。ベットは2つに折り畳み式で寝るときに広げる
いたってシンプルで物がごちゃごちゃしてる気配はない。

制服を脱いでメタリカの黒のバンドTシャツとジーパンに着替える。ジーパンでももちろん腰パンで履いてベルトを緩く止めてミサンガとネックレスはそのまま。


学は換気のために窓を開けてから本棚に向かう。
本棚にはマンガのような本はなく。すべて参考書やドリル等の勉強に関する本。特に考古学、化石やそのなかでも恐竜に関する本が多い。

学は恐竜の本を数冊本棚から抜くと机に座り恐竜の本を読み出した。

『かっこいー……』

恐竜の資料を見ながらなんとなく一人言をボソッと言った時だ。

『ほー。顔に似合わず少年みたいなこというんだな』

『小さい時から好きなんだよ。恐竜が……』

そして学は固まる。似たようなことが朝にもあった。
ギギギギという固まった体をその声のした方に向ける。


『ここが新しい部屋か。殺風景、もっと可愛くしたい。早く荷物届かないかなー』

そこには私服に着替えた桜木零が折り畳みベットを広げて座っていた。
全く気配はないし、こいつ、幽霊かなにかなのか?と思ってしまう。
私服は真っ白の清潔感のある前ボタンの半袖のワイシャツにベージュのズボン。
零はベットに座りながらキョロキョロと辺りを見渡していた。


『な、なんでテメーがここにいるんだよ‼』

学はガタッと立ち上がって真っ赤になって恐竜の本を閉じた。

『だって今日からここの家族だもん。自分の家に帰ってきて当然だろ?それに、龍司さんに今日から君んとこの部屋を共有しろといわれたんだ。兄弟なんだし何もおかしくないだろ。』

学は膝から崩れ落ち床に手をついた。ワナワナと龍司に大して不満が増幅していく。

『恐竜図鑑読んでる時の学って、子供みたいな顔だったぞ。眉間のシワなかったし。いつもそういう顔してりゃビビられることも無いんじゃない?ただでさえ真顔でも1つの村を壊滅させた悪人みたいな顔してるんだからさ。』

1つの村を壊滅させた悪人みたいな顔

学はますますガックリと脱力した。

『というか冷蔵庫牛乳か緑茶ない?おやつを食べるんだ。学も食べる?』

差し出されたのはアンパンだ。朝からアンパンしか食ってないんじゃないかこいつ……学は頭がクラクラした。そして『いや、いい。』と頭を抱えながら断った。

『顔色悪いぞ、何か災難に巻き込まれた顔だ。』

零はアンパンの袋を空ける。

『あながち間違いじゃない……』

学は頭をおさえながらフラフラと机に戻り椅子に座った。すると零がクスッと笑う。

『何が災難なの?僕に身ぐるみ剥がされて実は個性がない自分を哀れんだ?』

学はピクッとする。

『いままで楽な方に逃げて楽な方に逃げて、さぞかし楽だったでしょうに~。』

パクっとアンパンを一口かじるとトロンと幸せそうな顔をする零。

学は背中を零に向けたまま

『どうせいいんだよ、俺なんか。中学2年の時にはすでに身長は196センチだったし、人殺したあとみたいな人相に育っちまって。知らないうちにありもしない噂がたって』

『噂?』

ー学様と書いて魔王と呼ぶー

ー学様を怒らせると戸籍そのものまで消されるー

ー学様は関東を牛耳っていた暴力団を一人で壊滅させたー

ー日本を裏で動かしてるのは学様が率いるウルフボーイズだー

『ウルフボーイズってなんなのかね?』

『そんなの俺が聞きてーよ』


ワンワンU^ェ^U


『ふむ。なかなかセンスのいいネーミングだ。』

零は涼しげにアンパンを食べ進める。ネーミングセンスに関しては共感する。

『違うって言っても広がった噂は止まらないし次第に疲れてきて、ああ。もういいやって。』

『投げやりピーポーになっちゃったのね。ダサい。』

零の言葉に学眉間のシワを益々深くして振り替える。

『何?可哀想って言ってもらいたかった?おあいにく様、僕思ったことはっきり言うタイプでね。』

アンパンを食べる手をやめて零は微笑みながら言った。

『だってダサいじゃない努力も挑戦もしないうちに傷つくのを怖がって踏み出せないだなんて。そりゃ成長しない、そのままの停滞。後退もしないけどずっとそのまま。何も変わらない、うんダサいね!』

零はきっぱり笑顔で言い切った。零の言ってる意味は分かる。でも……

『俺のこと知らない癖にわかったこと言うんじゃねーよ。お前はいいよな笑って愛嬌振り撒いてりゃいいんだし。』

『わかってねーのはお前だクズ。』

いきなり零の声色が変わり学は一瞬恐怖する。

『僕は、この学園が欲しいからね。そのためには龍司さんに認めてもらわなきゃならない。勉強も運動もいっぱい努力して、生まれ持った自分の大嫌いな容姿だって僕の賛同を得るためなら何でも使うさ。』


……自分の大嫌いな容姿?

『僕は、君と違って努力してるの。だから1日でクラスの人気者になれたの。これからも続けてくよ。傷ついてもね。得るためにともなう犠牲やリスクは夢を絶対叶えるって決めた時から覚悟してる。プライドだって捨てる。僕は自分から夢掴みにいかない、与えられた餌で満足する君みたいなダサい人間じゃないんだ。』


零は立ち上がってゆっくり椅子に座ってる学に近づく。


『極端な話セックスして龍司さんが僕のことに夢中になって僕の手玉になるならそれでも良いって思ってる。だってそれで夢が叶うんでしょ?』

『はあ!?』

『あ‥‥もう1つ、いいこと思いついちゃった……』

零の白くて細い指をした両手が学の顔を包んだあとからはあっという間だった。

暖かくて柔らかい感触、甘い香り。
抵抗する間もなく、学は零に口づけをされていた。
頬ではない、唇と唇同士、ゆっくり零の顔が離れ抱き締められ耳元で囁かれる。

『君が僕の手玉になっちゃえばいいんだ……』

プチんとワイシャツのボタンをはずし露になる零の陶器のように白い胸部と桜色の乳房、椅子に座る学の上に股がる。

『いいんだよ。僕は別に今のままの君で。ライバル1人減って楽だし。でも優秀なのにそのまま消えるのは勿体ないから、せっかくだから僕の一番の下僕になってよ……欲しいものはたくさん……あげるから……』

また零の唇が近づいたときだ。ガタンと零をはねのけて学は立ち上がる。

『な、な、な!』

学、もはや頭の中がパニックになる。今、キス。キスされたんだよな?
キスされたんだよな⁉キス、された‼

『わーーーーーー‼』

学は真っ赤な顔で階段を転がるようにかけ降り家を飛び出した。
残された零はボタンを止め直し一言。


『面白い……』

まるで子供が新しいおもちゃを見つけたような笑顔を見せるのであった。