学はホームルームが終わるや否や理事長室に向かいバアン‼と扉を蹴破るように教室をでた。

理事長室に向かう途中の廊下では恐ろしい形相の2メートル近い大男が今からまるで人を殺しにいきそうな邪気を放ってズカズカ歩いていくものだからすれ違う生徒は皆恐怖で悲鳴をあげて逃げるかその場に凍りついた。



『龍治いいいいいいいい‼』

理事長室につくやいなや半ば『討ち入りじゃー‼』みたいな言い方で理事長室に入る。

入ると赤い絨毯がひかれ来客用のソファーは牛革でたくさんのトロフィーやシカの剥製が展示されている。

その奥にメガネをかけて澄ました顔でコーヒーを飲み理事長、桜木龍治と朝校門にいた七緒真琴が三角巾とエプロンをしてコーヒの入ったポットを持っていた。

『龍治、お前、いきなりなんなんだよ‼今日の転校生‼いきなり俺の弟だとか、競わせて後継者決めるとか‼もうわけわかんねーよ‼』

『学園にいるときは理事長かお父様と呼びなさい、学。』

龍治はコーヒーを一口飲んでカップを置いた。

総理事長というのだから一見年老いた老人を想像するが見た目は30代の青年。
あくまで見た目だけ、実際は45歳の中年。
堀の深い目鼻立ちに濃灰の短い髪の毛はしっかりセットしてあり目も同じ濃灰で少しつり上がった目をしている。
銀のフレームのメガネをかけてスーツ姿が様になっていて理事長というよりかは、安っぽいところではなくお金持ちのマダム達が通う高級な銀座のホストのよう雰囲気を持つ。
この男こそ桜木龍治。私立桜木学園のそうであり、学の父親である。

しかし父親といっても血は繋がっておらず、幼いときに施設で預けられていた学を龍治が引き取り養子縁組みしたなかの親子である。


『それに十分分かってるじゃないか、今自分が言ったそのとおりだよ学。』

龍治はメガネをクイッとあげて話す。

『それにしてもいきなり過ぎるだろ⁉前もって一言とか無かったわけ?』

学はボフッと来客用のソファーに座った。

『がっくん、零君を引き取ることになったのもここに転校させるのも1週間前直近で決まったんです。龍治さん忙しそうだったでしょ?実は……』

七緒が学にコーヒーをカップに注いでソーサーにのせて渡すと七緒の話に被せて龍治が話し出す。

『真琴、私から学に説明する。』

龍治は席を立ち来客用のソファーに座る学と向かい合わせになるソファーに座った。

『秀一(しゅういち)の事覚えてるだろ?』

『秀一って、前に遊びに来た龍治が生物の研究員だったころから親友だっていってた人?』

龍治は頷く。茂木秀一、学自身まだ数回しか会っていないがひょろひょろとした黒渕メガネボサボサの黒髪をした優男だったことは覚えている。

『秀一はアメリカの大学で研究員をしていたんだ。そんなある日秀一の研究室が薬品の調合の失敗で爆発してしまったんだ。秀一は命はとりとめたもののもう自由の利かない体になってしまって…』

龍治は言葉をつまらせた。


『秀一には俺と同じように施設から引き取って養子縁組みした子供がいたんだ。それが零君だ。秀一の事故を聞いて俺は急いでアメリカに向かった。そこで秀一に直接あって頼まれたんだ。こんな不自由な体では零は育てられない。友人である俺に零君が立派に育つまで保護者であってほしいと。そこで俺は急遽零君を我が子としてむかい入れたんだ。』

『そんなことが……でも待って。事情は分かったけどその後継者なんちゃらは一体……』

『あ、それはついで。最近学、校則違反が著しいからちょうどいいと思ったのさ。言っても言うこときかないし。このままじゃ俺の立場も危ういもの。そんな奴に地位や財産は渡しませ~ん。いっておくけど零君は頭も運動神経もいいし人を引き寄せるカリスマ性もある。焦ったほうがいいよ~学。』

学はムッとして立ち上がった。


『別に、地位とか財産だとか。そんなのいらねーし、この学校も元々継ぐ気なんて最初からサラサラないから。俺の新しい弟に全部くれてやれば?なんなら今俺と縁切ったっていいんだぜ?』

それを聞いていた七緒が『がっくん‼』と叱るような口調でピシャリと放つ。

『がっくん、今まで龍治さんがどんな思いであなたを育てたと思ってるんですか‼言葉が過ぎますと私も怒りますよ!』

『あーうるせーうるせー‼こっちは引き取ってくださいなんて言った覚えないんだよ!皆して学様だの理事長理事長理事長って本っっ当うぜー‼どうせ俺を引き取った理由なんて後を継がせる子息がいないから適当に見繕った人形なんだろう!』

七緒が再び『がっくん‼』と言おうとしたときだ。龍治が立ち上がり平手でパアンと学を叩いた。理事長室に叩いた音が余韻を残す。

『いって……チッ‼』

学は舌打ちするとそのままバッと理事長室を飛び出してしまった。
七緒が追いかけようとすると龍治がそれを止める。

『一体どうしちゃったんでしょう。中等部にいた頃は、口は多少悪かったけどあんなこと言う子じゃ無かったのに……高等部に進級してからいきなり髪を染めたりピアスを開けたり派手な格好したり……』

『そうだな、でもそれだけなんだよ。』

七緒がそういうと龍治はそう答えた。七緒は『え?』と龍治を見る。
龍治は理事長席に戻りながら話す。

『校則違反は派手な格好と立ち入り禁止の屋上に出入りするだけ。なんだかんだで授業受けてないようでちゃんとノートはとってるし、なんだかんだいってるくせに文句いいながら最後には先生の言うこと聞くし。サボろうと校門から出ようとしても真琴、お前に引き留められてすぐ教室に戻る。でもそれを何回も繰り返してるのに何故裏口から出ないんだと思う?』

龍治はドカっと理事長席に足を組んで座りメガネを外し髪をかきあげて『ふー』っと深いため息を。

『全く、一丁前に思春期になりやがって……このかまって野郎が。』