そこからは、歩いて 教室に戻った。

「神無月、遅い!!!」

「神無月が帰ってこないから、演劇練習始めれなかったんだけど⁇」

「……ごめん、教室のdestroyは⁇」

「演劇でない人たちに任せた!
ほら、早く始めるから 廊下出て。」

「……え⁇廊下で練習すんの⁇」

「だって、教室の中は今 destroyの真っ最中で使えないでしょうが。」

「……そうか、分かった。」

全員が立ち位置について 練習が始まる。

『初めまして、……』

俺の一言目から始まる演劇。
責任重大で 本番 失敗しないか凄く不安だけど でも、俺がやらないとダメだから。

俺等のクラス演劇は この春 実写映画も公開され、アニメも放送されていた Web漫画のパロディ⁇もの。

その話の舞台を借りて、登場人物や話の内容は書き下ろしたみたい。

通しが終わって、時間を確認すると カーテンコールまで合わせて 26分かかっていることが分かった。

「このままだと大幅減点になる。」

「20分までに収めるんだよね⁇」

「あと6分か……」

「でも、台詞ミスって 言い直したりとか 少し時間とっちゃったから そこのところ集中練習してから もう一回 通そう。」

そうなって、いくつかのシーンの集中練習をしたけど 俺 準主演だから 全部が登場シーンだった。

「10分休憩挟んだ後に 通しします。
20分を切ったら 今日は解散で!!!」

「「「はーい。」」」

10分の間に学校近くのコンビニまでダッシュして 居残りメンバーに差し入れとかした。

かなりの人数が残ってるから、直ぐになくなっちゃった。

もう少し買うべきだったかな。

「じゃあ、通し練習始めます。
照明暗くして、音源用意して。」

教室でしか 練習できないから、照明練習 スポットライトはできないけど。

「時間計ります、よーいスタート。」

音源が鳴り 初めのシーンが始まる。

なんか、緊張する。
もう本番が明日に迫っているからだろうか。

手に汗が止まらない。

噛みやすい台詞が多いけれど、甘噛みすらせずに 全て 言い切ることができた。

その次のシーン。
舞台セットが大きく変わる。

小道具・大道具係も全員が動いて、舞台転換をする。

机とか椅子の用意をする時に 音を鳴らさなように、そのことに細心の注意を払った。

そこから物語はだんだんとスピード感を増していく。

そして、佳境のシーン。
先生には "この物語の運命線" とも言われた。

1番の熱量がこもるシーン。

あまり感情を表に見せない俺が演じるキャラクターが唯一 感情を露わにするシーン。

そのシーンが終わり ラストシーン。
それも難なく終わり、カーテンコール。

ピッ、と音が鳴り ストップウォッチが止められる。

「ただいまの時間、19分26秒!!!」

全員が跳ね上がって喜んだ。
これ以上になく、嬉しかった。

「じゃあ、今日はこれで解散とします。
明日、朝練をするので 7:20ホームルーム集合でお願いします。

喉を潰さないように、気をつけてね!!!

それでは、明日 良い結果を残せるように頑張りましょう!!!

また、明日!!!」

クラス全体で士気を高めて 解散した。

"今日は学園祭来てくれてありがとう"
"松坂の学園祭、行ってもいいなら 行ってみたい気がします笑"

学校出て、とりあえず そう送った。

"学園祭楽しかった、ありがとう"
"松坂は11月にあるから またその時に誘います"
"レオにとっての本番は明日なんだから ゆっくり休んでね"

そう返信が来て、その後たくさん写真が送られて来た。

その中でも気に入ったのだけ ピックアップして保存した。

カメラロールの中に入ったその画像を何度も何度も 繰り返し眺めた。

次の朝、いつもは遅刻ばかりの俺だけど ちゃんと朝練に時間に間に合うように学校に行った。

朝練は三回通せる時間があったはずだったのに、結局 2回しか通せなかった。

けれど、2回とも 完璧だったから それでいいか。

俺等の発表は1番初めだったから。

朝礼が終わって、直ぐに演劇コンクールの舞台である講堂に向かった。

少しバタバタしたけれど、無事に用意が終わり 幕が上がる。

舞台の上の照明は強くて、おかげで客席のほとんどが真っ暗で見えない。

落ち着いて、噛まないように。

それだけに注意を払って 物語を進めていく。

途中、照明のミスをも 俺がアドリブを入れることによって 上手く繋ぐことができたと思う。

これが終われば この演劇をするのももう最後なんだ、そう思えば 何だか 泣けてきちゃいそうで。

初めて台本を見た時、台詞の量の多さに圧倒されたけれど 今では全員の台詞を暗唱できるにまでなった。

照明の動き、音響の動き。その他たくさんの役目も全ての動きを把握するにまで余裕を持てたのは きっと この一貫のクラスで 演劇をすることができたから。

きっと大丈夫、きっと優勝だ、心の中に何故かそんな確証があった。

「楽しかった、良かった。」

みんなが口々に言っている。

教室に戻ると 直ぐに記念写真撮影会が始まった。

色んな女子に "一緒に写真撮ろう" って誘われて、色んな人の写真に映り込んでいた。

外に人影が見えたから見に行ってみると 奈緒だった。

「奈緒 来てたの。」

「どうしても見たくて、学校 1時間だけサボっちゃった。」

「あぁ、本当じゃん……松坂 そういうこと 厳しいんじゃないの⁇
大丈夫⁇」

「うん、月曜の1時間目はロングホームルームだから 別に大丈夫。

今日の予定も することがないから自習って聴いてたし。」

「そう、ならいいんだけど……」

「澪緒、カッコよかったよ。」

「……本当⁇」

「うん、本当 カッコ良かった。
惚れちゃった。」

「あはは、いいじゃんいいじゃん。

……じゃあ、今から学校行くの⁇」

「そうね、行ってくる。」

「じゃあ、校門まで見送りに行くよ。」

「いや、クラスの人とすることがあるなら そっちを優先して⁇」

「いや、特に何もないから 大丈夫。」

急いでクラスTシャツに着替えて、貴重品を持って 奈緒の見送りをする。

校門を出る直前に 奈緒は俺の手を握った。

「まだ言ったことがなかったことがあるの。」

「ん⁇」

聞き返すと、

「好きだよ、澪緒。」

そう言って 微笑んでから 校門を出て行っちゃった。

振り返ってから 大きく手を振る。

可愛いな、本当。

俺も手を振り返して 昨日と同じ、奈緒が見えなくなるところまで 見守った。

教室に帰ると まだ教室が空いていたから 涼みたいだけ涼んでから 教室を出た。

今日はバンド企画を見に来た。
楽器はしてたことあるし、聞くのも好きだから。

体育館で軽音ライブをしているんだけど、体育館 冷房とかなくて 暑いんだよね。

前の方に詰めるに生徒会役員に言われ、その通りにする。

「あっ、澪緒!!!
時間余ってるんだけど 何かやらねぇ⁇」

「無茶振りすんなよ、本当……。
俺 今楽器持ってねぇよ⁇」

ライブ企画全体のMC役の生徒会役員、友達の曽田。

急にバンドやれ、って言われても難しいけど……できないことはない。

「ギター使うなら 使っていいですよ。」

と一つ前の演目の人がギターを貸してくれた。

そのことを有り難く思いながら 俺はステージの上に立った。

「おい、曽田。
お前 ボーカルな⁇

俺がギターとメインボーカルするから、サブボーカル。

普通に歌ってればいいから。」

「無茶なこと言うなよ、まぁ やってみる。」

ピックは渡されなかったから なしでいいや。

チューニングも大体はあってるし とりあえず 自分がやりやすいように合わせ直した。

「ちょっと、試しに弾いてみていい⁇」

そう言って俺が弾き始めたのは RADの "君と羊と青" のイントロ。

何となく、ちゃんと指は動いてるから いけるでしょう。

「初めまして、飛び入り参戦しますー。

自分の好きなバンドの自分の好きな曲の覚えているところだけ 演奏していくので 皆さん 楽しめるか分かりませんが、ノリのいい曲とか 知名度の高い曲を選ぶつもりではいますので 楽しんでください。」

曽田に持ち時間を聞いたら 15分って言われた。

前の人の残り時間だけだから、って。

「15分だったら、MC無しで5曲くらい⁇

まぁ、いけるだけやってみようか。」

息を吸い込んだ。

「歌手名・バンド名とタイトルだけ 言っていきますね。

一曲目、RADWIMPS 君と羊と青」

1番しか歌詞をはっきり覚えてないから 1番だけで終わらせた。

2番⁇からそのあとは続いてて 2番で切っちゃうのはおかしいし。

「次、UNISON SQUARE GARDEN シュガーソングとビターステップ」

これの歌詞はほとんど曽田に任せた。
サビしか知らないもん。

「んー、他 どんなのが好きなんだろう……ジャンル ぐちゃぐちゃになっちゃってもいいよね……米津玄師 アイネクライネ」

2番があやふやだから、1番から2番後のラスサビ前に飛んで 2番以外を歌ったら。

「あー……RADWIMPS 前前前世……知ってるよね⁇」

前前前世はフルで歌った。
original ver.はちょっとあやふやだから movie ver.で。

「自分が好きなバンドしか聞かないから もうネタギレがヤバイな……。

GRANRODEO 変幻自在のマジカルスター」

アニメのop分しか 覚えてないけど……。

「他……OLDCODEXのRage on」

これも、アニメのop分しか 覚えてない。

「あと5分か……CHiCO with HoneyWorksのプライド革命」

これはフルで。
必然的にこれがラストになる。

かなりランダムなのに それに応じて反応してくれる観客の皆には本当に感謝しかない ありがたい。

おかげで気持ちよく歌えるし 弾ける。

歌い終わって、頭を下げた。

「リクエスト、募れば良かったね。
また機会があれば そうしよう。

15分間、短い間だったけど ありがとうございました。

凄い 楽しかったです、本当……では。」

俺はギターを返した。
ちゃんと、お礼も言った。

あんなにギターかき鳴らしてたのに 爪が裂けたり割れたりしなくて良かった。

本当 奇跡的だと思う。

「澪緒、ありがとうな。」

「楽しかったしいいよ。
じゃあ、暑くなってきたから 涼みに講堂行ってくるわ。」

おかげさまで、大量の汗をかいたから 冷房の入った講堂へ避暑に行く。

……臭いって思われないかな、大丈夫かな。

ちょっと不安だな。

知り合いを見つけたから その隣に座る。

「次のクラスどこ⁇」

「僕のクラス。」

「……まじか。
自分のクラスなのに 客席から見るの⁇」

「うん、することないから。」

「でも、半分くらいの11組が客席にいるね。
また、独裁⁇」

「何も指示も出さないから、本当は来たくもなかったんだけどね。

担任に後から怒られるのが嫌だから来た。」

「なるほどねー。」

講堂内が暗くなって、次の演劇についてのアナウンスがされた。

幕が上がり、物語が始まる。

……あー、好きじゃない始まり方。
まぁ、俺の好みを気にして作った演劇じゃないから仕方ないだろうけど。

やっぱり、隣のクラスの独裁者のワンマンショーみたいになってる。

……これが美人だったらな……。
滑舌もそんなに良くないから聞き取りづらいし。
変なところでセリフ切りすぎで聞き取りづらいし。

「あ、やべ。涙出てきた。」

「えっ、何、感動した⁇」

ずっくん(隣に座ってる友達)に驚かれた。
仮にでも同じクラスの人の演劇なんだから、その言い方はダメでしょう。

「違う、コンタクトずれた。
……ってか、目の中に長めの睫毛入ったな、痛い……」

「もう、ビックリさせないで。」

「ごめんごめん、まぁ 思ってもないけど。」

「そうだろうね。」

そのあと 周りに迷惑にならない程度に時々喋ってた。

カーテンコールも終わり、幕が下がる。

俺は伸びをした。

「なんか、良い話ではあるんだけど 王道過ぎて嫌だな。
面白いんだけど、キャスティング……」

「自分が出たかったんだもん、仕方ないでしょ。」

「まぁ、そうか。
これから、何処か行ったりする⁇」

「とりあえず、クラスで集合がある。」

「そっか、行ってらっしゃい。」

「うん。」

ずっくんと別れてから、もう2つ演劇を観てから 講堂を出た。

今度は少し寒くなってきちゃったから。

「あ〜、神無月ぃ〜〜!!!」

名前を呼ばれたから、立ち止まる。
後ろから呼ばれた気がするから 振り返ると、特進の派手な女の子。

「どうかした⁇」

「写真撮ろ⁇」

なるほどー、写真ですかー。
まぁ、いいけど……撮った写真はもれなくSNSにアップするんでしょ⁇

自分たちの写りが良いやつを選ぶから、俺の顔がその時どんなのでも御構い無しだもんね。

俺 男だけどさ、いや 人間だからさ、少しでもいいように見られたいから……、シャッター切るときに 変な顔してなかったらいいだけなんだろうけど。

「いいけど、デジカメ⁇」

デジカメは勘弁して欲しいな、本当 写真写り悪いから。

「携帯に決まってんじゃん。
ウチの教室、開いてるし 人もあんまり居ないから 携帯触り放題。」

先生 近くに居るんだから あんまり大きな声でそんなこと言うなよ。

「でも、教室展示剥がしたんだから 結局はいつもの教室だろ⁇」

「そうだけど、違う。」

何が違うんだろ……、別にどうだって良いけど。

ほぼ連行されるような形で 俺のホームルームと正反対の場所に位置してる選特の教室についた。

「後ろ開いてるから、後ろから入って。」

凄いふてぶてしい。
まぁ、そういう人って知ってたけど。

てか、そもそも教室に無断で入ることから ダメなんだけどな。

入って、直ぐに女は鍵をかけた。

俺と女 2人きりの密室になった。

「神無月、彼女居る⁇」

「うん。」

「いつから⁇」

「先週⁇」

「もう抱いた⁇」

「まだ。」

「今更純情ぶってるとか。笑笑」

「そんなつもりはないけど、そう思われても仕方ないな。」

ってか、そもそも 付き合って1週間で彼女 抱いたりしない。

元カノの誰を探しても、1週間で抱いた人はいないはず。

ってか、1回も そういうことしてない人だって何人もいるし⁇

「好きなんだけど。」

「へ⁇」

イキナリすぎたし、変な声出しちゃった。

「神無月のこと好きなんだけど!」

「ありがとう。」

恋愛的な意味で言っていることは勿論 分かってる。

「でも、こたえられない。
ごめん、だけど 分かって⁇」

「神無月、彼女欲しくない って言った。」

「言ったような、言ってないような⁇」

「言ったし!だから、告白しなかった。」

「そっか。」

「なのに、何で!?
何で 彼女が居んの!?!?」

泣いちゃったその子を引き寄せた。

「俺は君の彼氏じゃないから、君の涙を止めてあげることはできない。

でも、男だから 泣き止むまで胸を貸してあげることはできる。

気が済むまで泣いて⁇」

俺の腹をドンーと蹴って 女は俺から離れた。

……腹いてぇ、膝が鳩尾に入った……。

「女たらし!触んな!!!」

嗚咽を隠さずに 泣き続けるその子。

なーんか、悪いことしちゃったな……。

そう言えば、 "頑張ってまで彼女は欲しくない" って言ったなー。

俺のしょーもない話を聞いて、真に受けてくれる人がいるなんて 思いもしなかった。

俺は女から離れて そこらへんにあるテキトーな机に座った。

ていうか、机下げてるから 上体を倒して寝転んだ、近くにあった荷物とか 寄せて。

椅子とかゴツゴツするけど、まぁ 気にしない。


「あー、そうだ 俺 金券とか食券とか交換してない。

ねー、下行きたい。

……アレだったら、一緒に回る⁇」

「はぁ!?」

すげー、デカい声。

そんなに嫌がる⁇
てか、仮にでも俺のことが好きなんじゃないのー⁇

「いや、別にアンタと一緒に回りたいわけじゃないし。」

テキトーに友達見つけて そいつと回る方がよっぽど俺だって楽しい。

でも、この人を放っておいていいんだろうか、っていう俺の善心が働いたから 誘ってみただけ。

別にこの人と一緒に回りたいわけじゃない。

……とりあえず、食券交換の時間過ぎちゃうから 早く行かないと。

お昼ご飯 食べ過ごしちゃう。

それに、食券とか使い残したの お母さんにバレたら "勿体無いことをするな" って怒られちゃうし。

お昼ご飯抜きより、怒られる方が嫌だな。

兎も角、俺は上半身を起こした。

直ぐ目の前に女が居て ビックリしちゃった。

「女たらしに近づくと碌な事ないから、離れなよ。」

女たらしを否定できないと思う、だって 血を飲む為に俺は手段を選ばないし。

でも、さっきの言い方は少し腹が立ったから。

「はぁー⁇
ってか、そう簡単にここから出られると思った⁇

思ったなら、馬鹿だ。」

俺の両脚を跨ぐように 俺の方を向いて 机に登った。

……顔が近い。
好きな顔じゃないから、あんまり顔を近づけないで。

俺の太腿の上に座った女。
これで、俺は身動きを封じられたようなモン。

顎をクイッと上げられる。

目線がバチッと合う。

顔が近づいてきて、唇同士が触れる。

ただの皮膚と皮膚の接触、なのに凄く気持ちが悪かった。

「……やめろ。」

「いーや♡」

嫌なのはこっちだし。

「何がしたい⁇」

「えー?あんなことや、こんなこと?」

俺の首に腕を回して 全体重をかけてきた。

両腕で2人分の体重までは支えきれない。

「ねぇ、支えきれない。」

「無理しなくていいから、早く寝転がって。」

ゴンー、ついに俺の両腕が悲鳴を上げて 力を失った。

椅子が背中に刺さって痛い……。

女は俺の股のあたりに座って 俺の喉元に手を当てた。

「弱っちい、男の癖に。
アタシが首を絞めたら、お前 死ぬね。」

ゾワッと悪寒が走った。

「細い首。
捻っただけで簡単に折れそう。」

あぁ、俺 この人に殺されんのかな、

「虚ろな目。
そんなにアタシが嫌?」

反応はしない。
その質問には答えがないから。

「何か言えよ、その口で!!!」

両頬を片手で掴まれた。

「……俺を襲って、愉しい⁇」

俺の顔に 涙が落ちてきた。
大粒の涙が、ポツポツ、ポツポツと。

「愉しいと思う⁇
答えてあげる、愉しい訳ないじゃん!!!

こうでもしないと神無月はアタシのこと 見てくれない!!!

アタシだってこんなことしたい訳じゃない!!!

神無月の彼女になりたい!!!
そうなって、正々堂々と神無月のことを好きでいたい!!!

なのに、彼女持ちとか…アタシ 悪者じゃん!!!

他人のモノを横取りしようとしてるみたいじゃん!!!

神無月ぃ……解ってよ……」

俺の胸に顔を埋めて泣くその人。

俺が悪かったんだろうな。

俺の日常態度の何処かにこの人に気持ちを持たせるような行為があって。

変に俺に気を向けさせて。

嘲笑うかのように、他の人と付き合って。

この人の心に抑えきれないまでの恋心を育ませてしまった。

俺が悪いんだ、って。きっと。

「痛いほど解る、でも想像の域だから やっぱり分かんないや。」

泣く子の背中に手を回そうと思って、腕を上げた。

でも、力無く その腕を降ろした。

……きっと、こういうのがダメなんだろうから。

どれだけの時間が経ったのか分からない。

てっぺん近くにあった太陽が 今では2人の影をのばしていた。

「……落ち着いた⁇」

「うん。」

「ごめんね。」

「うん。」

「じゃあ、俺は行くから。」

「うん。」

俺は教室から離れ、やっぱり 食券の交換に向かった。

いや、別にそのことしか頭になかった訳じゃないけど お母さんの鬼の形相が頭に浮かぶから どうしても……ねぇ⁇

結論、もう交換時間は過ぎていたけれど まだサンドイッチが余っていたから 貰えた。

食べる席を探していると それなりに喋る男子グループが声を掛けてくれた。

「神無月、今から飯⁇」

「そうそうー、一緒に食べていい⁇」

快く承諾して、席を詰めてくれた。
空いたところに腰掛けて、貰ったものを食べ始める。

「あ、そういや 神無月のこと探してる人多いみたいだぞ⁇」

「そうそう、色んな人に神無月の居場所聞かれたー。」

「マジで⁇」

とりあえず、口の中のものを飲み込むまで 口元をおさえた。

「え、男⁇女⁇」

「どっちも。」

「男誰⁇」

「担任。」

担任かー、マジかー。
まぁ、俺から探さなくても 俺のことを見つけ出してくれそうだから 気にしないでいいや。

「 "職員室に居るから、来い" って。
これ伝言。」

「行かないとダメかー。」

呼び出されるようなことはしてないつもりなんだけどなー。

まぁ、いいや、取り敢えず行ってみよう。

余ってた分を口に詰め込んで、完食して、すること無さそうにしてた子を連れて 職員室に向かう。

「付き合わせちゃってごめんね、ヤマ。」

"山雅太智" 今年になって 初めて同じクラスになった子。

でも、何かと去年から仲良くしてる。

「気にしないでいいよ、澪緒君。」

"しつれいしまーす" ヤマは外で待ってる、って言うから 俺だけ中に入って 担任に話しかけた。

「しつれいします、こんにちは。
呼び出しました⁇」

「遅かったな、何してた⁇」

「サンドイッチ食べてました。
で、用件はなんですか⁇」

担任はズボンのポケットから 紙を取り出した。

「これ、金券あまったけど 欲しい⁇」

「欲しいなー⁇くださーい。」

"はいよ" って 金券 何枚もくれた。
いい人だ。

「あと、空き教室に勝手に入ったらダメだろ⁇」

「見てたなら助けて欲しかった。」

「女子生徒が大声で叫んでるのが聞こえたから 何かあったのかと思って教室まで行って 聞き耳を立ててた。

その時にはもう既に事は済んでただろ⁇」

「……まぁ、そうね。」

「人にホイホイ付いていくな、今日みたいなことになるんだから。」

「はーい。」

「あと、無理すんな⁇」

「……無理してないと、誰かに迷惑かけちゃう。

ありがとうございます、俺のことを気にかけてくれて。
それだけで十分です。

外で人待たせてるから、行っていい⁇」

"おう、行ってらっしゃい" と先生に送り出されて、ヤマと合流。

「遅かった⁇ごめんね⁇」

ヤマは首を横に振った。

さっき皆でご飯食べてた場所を見に行ったけど、既に移動済みだったから 2人で回ることにした。

昨日食べて美味しかったから、唐揚げ2つとフランクフルト、はしまき を買って。

てんぷらアイス、値下げしてたから 買いに行った。

普通に食べたかったし。

文化祭2日目は ほとんどの模擬店が値下げしてくるから 高いものなら 2日目まで我慢する方がいい。

もう結構 お腹いっぱいになってきていたし、てんぷらアイス美味しいし、で 残ってる金券全部使って てんぷらアイスを出来るだけ買った。

合計3つ。

そのうちの一つをヤマに渡した。
好きな味か分かんないけど。

凄い遠慮するけど "アイス溶けるから、食べて" って 押し付けた。

食べ終わってから 担任から余った金券貰って 今のはその金券の分だったから 気にしないで、的なことを言った。

そうしたら、余計に遠慮してきた。

……ちょっと意味わかんない。
気にしなくていい、って言ってんのに。

金券こそ無くなって お腹もいっぱいにほど近いけれど 文化祭の雰囲気を楽しみたくて ブラブラしていると 知らない先輩に肩を掴まれた。

「神無月君だよね⁉︎」

「写真撮って⁇」

女の先輩 5〜6、7人が集まってきた。

カメラを受け取ろうとすると、

「違う、神無月君は写るの。
君、撮ってくれる⁇」

ってヤマにカメラを渡した。

ヤマはお人好しだから "わかりました" って言って 受け取ってたけど。

俺、真ん中に立たされて写真を何枚か撮られた。

「金券、残ってたりしない⁇」

ポケットに手を突っ込んでみると、紙が入ってた。

それを掴んで出してみると 使い切ったと思っていた金券だった。

50円分。

「焼き鳥、何本でもあげるから その金券をちょうだい⁇」

「俺はいいんですけど、先輩がいいんですか⁇」

確か、昨日は三本で100円ってやってたはず。

「余って廃棄よりは断然マシだから。」

俺の手から金券を取ると、紙コップいっぱいに焼き鳥が刺さったのを 4つくれた。

ヤマも俺のおまけ、って言って 一つもらってた。紙コップいっぱいを一つ。

……シェアする相手いなくなっちゃったじゃん。

「量多いねー。」

とかって言いながら、焼き鳥を頑張って食べる。

"めっちゃ焼き鳥持ってんじゃん" って近くを通る知り合い皆に言われて その人たち全員に焼き鳥1本ずつ渡していった。

……それでも、まだ食べ終わらない。
2本ずつ渡せば良かった……。

「無理ぃ、もうギブなんだけど。」

ベルトを緩めた。
俺、食べたらすぐにお腹出てくるタイプの人だから。

自分の分食べ終わったヤマにまだ手をつけてない焼き鳥コップ一つ渡した。

「えー、ウチもうお腹いっぱい……」

「神無月は限界突破してる。」

どうしても、あと1カップは食べられなかったから 担任のところに持っていくことにした。

校内飲食物持ち込み禁止だから 怒られかな⁇

でも、食べられる食べ物を棄てちゃうよりは全然いいよね⁇

「しつれいしまーす。」

担任居たから 焼き鳥カップを押し付けた。

「何これ。」

「焼き鳥。」

「それは見たらわかる。」

「食べ切れないから、処理して貰いたくて。
先生、焼き鳥好きでしょ⁇」

「……好きだけど、量と油……」

「俺これ まるまる2つ分食べたんです、もうお腹いっぱいでこれ以上食べたら 吐きます。」

「それは困るな……、ってか こんなに焼き鳥いっぱい買ってどうすんだよ。」

「50円で この焼き鳥カップ 5つですよ⁇
破格です、余りそうだったらしくて 知らない先輩に押し付けられました。

まぁ、そういうことなんで よろしくお願いしますー。」

先生に押し付け終わって、ヤマと2人でホームルームの鍵もらってから ホームルームに戻る。

今日は閉会式が4:30〜あって、その為に4:00ホームルーム集合。

あと20分で集合時間だし、することもないから教室に帰ることにした。

劇が終わった後、時間が無くて 自分の荷物 一箇所にまとめただけだったし 他にも小道具とかも散乱してるから 小道具をまとめて入れていた段ボールの中に片付けた。

自分の荷物多いな……。
それを片付けてる間に皆帰ってきちゃった。

段ボールの中、綺麗に整頓して入れたかったんだけどな……。

皆帰ってきたから 机を並べ直した。

今日は特に教室で何もしてないから 掃除の必要はない、って決めつけて。

担任、教室に入ってきてまず 驚いてた。

"綺麗になってる" って言って。

することを先にしちゃったから もうすることがないらしくて 閉会式の為の講堂への移動の時間までは自由時間になった。

テキトーに近くにいた人とかと喋って、時間になって講堂に移動して。

閉会式が始まって、生徒会長の言葉とか 校長の言葉とか。
そういうのが色々あった後に2年演劇コンクールの結果発表。

優秀女優賞・最優秀女優賞の発表。
隣の暮らしの独裁者が最優秀女優賞を受賞していた。

「優秀男優賞、2年10組Re:Life 主演 立花昂平。」

他にも2人名前呼ばれてた。

次で名前呼ばれないかなー⁇
最優秀男優賞、呼ばれたなら 凄いよね。

「最優秀男優賞、2年5組……」

うーん、呼ばれなかったか。

「2年10組Re:Life 準主演 神無月澪緒。」

え⁇あ、呼ばれた。
やったー、嬉しいー、現実味が全くないけど。

隣の席の奴に "やったじゃん" って背中バシバシ叩かれて 同じクラスの人がメチャクチャに拍手してくれて。

それでも現実味がない。

「演劇コンクール総合結果の発表をします。

3位、2年11組。
2位、2年10組。
1位、2年5組。

最優秀男優賞・最優秀女優賞、また2年5組・10組・11組の演劇代表者の方はステージまで来てください。」

俺は立ち上がって、4階席から3階のステージまで向かった。

なんか、よく分かんない賞状をもらって 4階に戻った。

教室戻ると、色んな人が俺のことを褒めてくれた。

ただ純粋に嬉しかったんだ。

教室に帰って、終礼でまた コンクールで2位を取れたこと、最優秀男優賞・優秀男優賞を獲得した人がいることについて担任が褒めてくれた。

やっと現実感が増して来て、終礼が終わった後 ずっくん とか あけと のところに行って、

「俺、最優秀男優賞取ったんだよ⁇
凄くない⁉︎褒めて!!!」

って褒めてもらった。

家に帰る前に、学校を出て直ぐに、奈緒にLINEで 演劇コンクール2位・最優秀男優賞を獲得したことを自慢した。

"よかったじゃん"
"だってすごかったもん"
"おめでとう"
"今日までお疲れ様"
"今日はゆっくり休んで"

家に帰ってから LINEに通知が来てるから見ると 奈緒からの嬉しい言葉。

"ありがとう"

そう送るが早いか寝るが早いか。
今までの疲れが一気に出てきて 瞼が落ちてきた。