中学校でその人とは知り合った。
人気者だった彼は色々な女子と付き合っては別れて、を繰り返していた。
乙女心を弄ぶ、最低な奴。
それが彼に抱いた第1印象だった。
短くて2日、長くて1ヶ月。
学校中大半の女子がその餌食になった。
私の仲のいい友達がそいつ……馬渕と付き合い始めて、だからその友達経由で 馬渕とつるむようになった。
中1の冬のことだった。
たまに会話を交わす程度だったけれど、馬渕が悪い奴じゃないことはすぐに分かった。
更には女子の扱い方を心得ているから 女子がされて嬉しいことをさり気なくするような人だった。
"これはモテるのも頷ける"
背が高くて、顔が良くて、話が面白くて。
頭が悪い事を除けば 完璧だった。
その頃、私はよく彼とLINEをしていた。
毎日 2時間くらいはしていたと思う。
『最近、馬渕が全然LINE返してくれない。』
友達がそう愚痴っているのを聞いて、私は驚いた。
私とのLINEだと 直ぐに既読がつくし、返信も早かった。
"彼女を大切にしなよ"
"私とのLINEなんかよりも、彼女からのLINEを先に返してあげなよ"
家に帰って、そう送った。
"俺、時守のことが好きだ"
そんな返信が来て 私は返事に困った。
"馬渕には付き合っている人がいるでしょ⁇"
苦し紛れに送った言葉。
"別れた"
"今さっき"
なんて返信が来て、思わず変な声が出たほどだった。
"だからさ、付き合ってよ"
そして、告白された。
"付き合えない"
"なんで⁇"
"友達の元カレと直ぐに付き合うなんて真似はできない"
"なら、来週ならいい⁇"
"ダメ"
"なんで⁇"
"からかっているようにしか思えない"
"本気だよ⁇"
"それでも、ダメ"
"馬渕のことは良い友達だと思っている"
"俺は友達以上にはなれない⁇"
"分からない"
"まだ関わるようになって少ししか経っていないから"
"だから まだ分からない"
"そっか"
"うん、ごめんね"
"馬渕の気持ちは凄く嬉しい"
次の日、馬渕は私の席にまで来た。
「俺のこと、絶対好きにさせてみせる。
今はまだダメでも1ヶ月後、半年後のことはまだ分からない、そういうことだろ⁇」
私は頷いた。
それから、私たちは本当に仲の良い友人になった。
女友達と同じくらいに仲が良かった。
2人でショッピングに行ったり 映画を観に行ったり。
そうして、もっと深く付き合うようになって 少しずつ馬渕の表面以外の部分も見えるようになった。
人参やピーマンがダメなこと。
グリーンピースもダメ。
だけど それ以外のものなら何でも食べることができて、基本 好き嫌いはあまりないこと。
だから、好きなものを聞いても ハッキリとした答えは返ってこないこと。
お姉ちゃんが上に3人居ること。
いつも、お姉ちゃんのパシリにされていること。
そんな風に休日にまで遊ぶような仲になって、一年が経つ頃には すっかり馬渕のことが好きになっていた。
そんなある日、私は馬渕に遊園地へ遊びに誘われた。
今までは、
『遊園地に男女2人で遊びに行くのはカップルくらいだ』
なんて言って断っていたけれど このときはすんなりとその誘いを受け入れた。
そして迎えた当日。
長いアトラクションの待ち時間も馬渕と喋っていたのなら 何も苦じゃなかった。
閉園少し前、馬渕に手を引かれて 観覧車に乗った。
『今日は楽しかった⁇』
私は頷いた。
『すっごく楽しかった。』
何故か沈黙が続く。
私は何か喋らないと、と思って 色々考えたけれど 一日中 馬渕とは喋っているわけだから 今更 言い忘れていたことなんてなかった。
『俺さ、時守のことが好きだ。』
『うん、私 馬渕のことが好き。』
『……え⁇嘘っ!!!』
馬渕は驚いたのか、大声を出して 少し暴れた。
『ちょっと待って、揺れてて怖い……
あんまり動かないで。』
『あぁ、ごめんごめん。』
立ち上がっていた馬渕は自分の席に座り直した。
『俺の彼女になってください。』
『はい。』
馬渕はニコリと微笑んだ。
観覧車の頂点で 私は初めて男の人とキスをした。
観覧車から降りて、2人 手を繋いで歩いた。
お土産やさんで カップル向けのキーホルダーを買った。
割り勘だと思って、お金を払おうとしたら 馬渕に阻止された。
『こういうのは、男が買う物でしょ⁇』
って言ってた。
それからは至って順風満帆だった。
時々喧嘩をしても、必ずお互いが謝って。
1周年記念日には馬渕がサプライズをしてくれた。
だから、私は2周年記念日にサプライズを計画した。
記念日前日、七ノ峰に行って 私は勘違いをしたまま 澪緒の顔を殴ったでしょ⁇
そのことを馬渕は知っていて、
"もう、付き合ってられない 別れよう"
って、記念日にLINEでフラれた。
馬鹿みたいだね。
……好きだったはずなのに、ね。
お互いに好きだったから 付き合ったはずなのにね……
簡単に変わってしまうんだよ、もう 馬渕の頭の片隅にも私は居ないと思う。
何年付き合って居たとしても、その年月が長ければ長いほど いいなんて そんなことないんだ、って。
私、最近気付いたの。
馬鹿みたい。」
奈緒を抱き締めた。
"泣かないで" とは言えなかった。
返す言葉も見つけられなかった。
だから、ただただ 俺は奈緒のことを抱き締めた。
「聞きたくないよね、こんな話。」
俺は首を横に振った。
「奈緒のこと 全部全部、受け容れる って言ったでしょ⁇」
「……馬鹿じゃないの⁇」
奈緒は笑った。
奈緒の頬に手を添える。
親指で 目元の涙を拭う。
その唇に自らの唇を重ねる。
来校者は帰るように、っていう放送が流れ始めて 俺等は離れた。
まだまだ時間があったように思ってたんだけどな……。
「校門まで見送る。」
「ありがとう。」
その後 俺たちは何も話さなかった。
校門に着いて、奈緒が校門を出ようとしてる時に 奈緒の腕を引いて 奈緒を自分の腕の中に閉じ込めた。
「澪緒⁇」
「……ん、ごめん。
今日は来てくれて ありがとう。
気をつけて帰ってね⁇」
「待ってようか⁇」
「いやら明日の演劇コンクールに向けて、7時まで練習するらしいし……大丈夫。
ありがとう。」
「じゃあね。」
「うん。」
奈緒が校門を出た。
暫く、手を振り続けて 奈緒の姿が見えなくなって 教室に戻ろうとすると 先生に見つかる。
「先生が居る前で堂々とイチャついて。」
「あはは、なんか 別れ難く思ってしまって。」
「早く教室戻れよ⁇
クラス展示 バラすんだろ⁇」
「あぁ、そうでしたね。
破壊を楽しんで来ます。」
「教室は破壊すんなよ⁇
去年、お前の学年 天井 突き破っただろ⁇」
「突き破りましたね、だって 天井 ただのベニヤ板じゃないですか、破れちゃっても仕方ないですよ。」
「学校の備品を壊すな、ってことだよ。
早く、教室行け。」
「そうですね、じゃあ。」
俺は歩いて 教室に向かい始めると、
「遅れてるんだから、走って行けー‼︎」
って大声で怒られたから 走って校舎の中に入った。