学校が終われば、約束していた子と遊んで。
遊ぶだけ遊んで、別れて。

それが俺の日常だった。

でも、今日は違った。

今日は 誰とも約束をしていなかったし、家へ直帰しよう、そう思いながら ヘッドフォンをして 校門を通った。

周りの声が五月蝿いから、音楽で周りの音を掻き消した。

俺が通れば、キャーキャーと黄色い声を上げられる。
普通に歩いているだけなのに、ガン見される。

俺は周りの音を聴いていなかった。だからこそ、君の声も聞こえなかったんだ。

「止まれよ!!!」

ところどころ声が聞こえた。
脚を止めると、背中に誰かがぶつかった。

俺は振り返った。

そこには、怒った顔の美人が居た。

どうやら、俺に話しかけているらしい。

俺はヘッドフォンを首にかけた。

「……俺に用⁇」

バシンー
思いっきり、頬を叩かれた。

もちろん、相手は女な訳だから 転けたりはしない。

ただ、重心がグラついて 顔が叩かれた方向に向いただけ。

「……は⁇」

俺は腹の奥底から声を出した。

周りの奴等はビビって 寄り付かない。
けど、野次馬精神が強いから その場は離れない。

「謝って。」

「は⁇何で⁇」

何で、初見の人に謝らないといけないんだよ。
まだ、何もしてないだろ。

「何⁇惚けて許されようとしてるの⁇

雛のこと、ヤるだけヤッて捨てた、違うの⁇

もしかして、日常茶飯事だから、忘れてるとか⁇サイテーね!!!」

勝手に話進めて、怒んなよ。

「誰⁇イマイチ分かんねーんだけど、アンタの友達⁇

友達の代わりに、悪者の俺を殴って 正義のヒーロー気取り⁇」

よく居るよね、謎に正義感が強くて 周り見えてない奴。

「謝って‼︎雛に‼︎騙してごめん、って‼︎」

「……何処に居んの、そいつ。」

俺に非がある相手なら、さっさと謝って 帰ろ。
一言で済むなら、それでいいや。
楽だし。

「……私だよ、神無月君。」

見たことのある顔。

「昨日か一昨日くらいに告白してきた子だよね⁇
でも、俺 付き合えない、って言ったよね⁇約束したよね⁇始めにさ。

んで、無理矢理 事を進めたのはそっちで、俺はされるがままだったじゃん。

ボイスレコードもあるけど、聴く⁇

それか、 "周りの人に嘘吐いて 騙して、神無月澪緒を悪者扱いされるように仕向けてしまってすみませんでした、謝罪申し上げます" って、謝って⁇」

話が違うじゃん、嘘言うなよ。

「……ッ、でも、私は……‼︎」

「謝って。」

ボイスレコードを流す。

『神無月君、好きです 大好きです……付き合ってください‼︎』
『嫌だ、誰かと付き合う気分じゃない。』
『付き合う、って言ってくれるまで 離れないよ⁇』
『……嫌だ、帰るし。』
『ダメ、せめて私を抱いてからにして。』
『嫌、面倒臭いことになる。
今日はそういう気分じゃないし。』

その後に響く、ゴツンーという音。

『いった……、急に押し倒すなよ。』
『抱いてくれたら、諦める。』
『だから、嫌って……』


ここで再生を止めた。
ここから先は、一方的に俺が襲われてるだけだから。

「ねぇ、これでも 俺が悪いの⁇
謝ってよ、被害者は俺だよ⁇」

「……雛⁇」

「友達が嘘つきだ、って気付いた⁇」

「違うもん、こんなの 嘘、アリバイ工作してる、神無月君が。」

……え、わざわざ撮ってた音声を工作扱いすんの⁇

「なら、この先も再生する⁇
アンタと一緒に居た間 ずっと録音してたからね⁇」

「流せるなら、流してよ。」

……流すか、AVみたいで嫌だけど。

『抱いてくれないなら、私が……』
『ちょっ、辞めて。辞めて、って。』

ガムテープを千切る音。
この時、俺は馬乗りされていて、両手首をガムテープで巻かれた。

『これで、もう抵抗できないよね。』
『辞めて、そんなことしても虚しいだけでしょ⁇』
『そんなことない、私はそうは思わない。』
『……ッ、はぁ……触んな、ベタベタされるの嫌い。』
『私は好き。』

服の下に手を入れられて、身体のラインを執拗に触られた。

『ベルト外すな、ズボン下げるな。』
『だって、下を脱がないとできないよ。』
『……誰とでもそんなことしてたら、いつか後悔するよ⁇』
『しないよ、無差別でしている訳じゃないもん。
……その五月蝿い口も塞ぐ⁇』

口に頑丈にガムテープを貼られた。
鼻に貼られなくてよかった。
口も鼻もふさがれたら 息できなくなっちゃうから。

その後は、時々 俺が痛みに声をあげたり(呻き声) 相手が声を喘いだり。

暫くして、相手が落ちた。

俺は力任せに腕のガムテープを引きちぎった。
そして、口のガムテープも取って 自分のものを回収して 女を置いて逃げた。

『無防備すぎでしょ、誰か来たらどうすんだよ。』

せめてもの優しさで、服を着せておいてあげた。

そこでレコーダーは終わり。

「流したけど⁇謝ってくれる⁇」

「違う!!!」

「何が違う⁇」

「こんなこと、してない、私じゃない。」

「そう⁇同じ声してると思うけど……。
違う、って言うなら 仕方ないね、人違いかな⁇

『……何処に居んの、そいつ。』
『……私だよ、神無月君。』
『昨日か一昨日くらいに告白してきた子だよね⁇
でも、俺 付き合えない、って言ったよね⁇約束したよね⁇始めにさ。
んで、無理矢理 事を進めたのはそっちで、俺はされるがままだったじゃん。
ボイスレコードもあるけど、聴く⁇
それか、 "周りの人に嘘吐いて 騙して、神無月澪緒を悪者扱いされるように仕向けてしまってすみませんでした、謝罪申し上げます" って、謝って⁇』
『……ッ、でも、私は……‼︎』
『謝って。』

さっきの会話からして、君だと思ったんだけどな……、疑っちゃってごめんね⁇

ほら、正義感の強いお友達も、顔面を殴られて傷付けられたこと もう怒ってないから、ね⁇

じゃあ、俺は帰るから。」

また、ボイスレコーダーを再生。
面倒臭い事になりそう、って思ったから 録音してたんだよね。

「ちょっと、顔が良いからって、調子に乗んな!!!」

胸倉 掴まれた。
何で、俺が怒鳴られてんの⁇笑

「誰の顔が良いの⁇俺、ブスだけど。」

バチンー、凄い大きい音したし。
ビンタされたし、頬 痛い。

「巫山戯るな!!!
善人のフリした、化け物が!!!」

「化け物、ねぇ……言って良いこと悪いことの区別もつかない⁇」

明らかに怯んだ女。
俺の胸を掴む手を荒く、払った。

「てか、いつ俺が善人ぶった⁇俺は生まれた時から悪人だ。
一生 ヒールを演じて生きてくよ、それが俺の運命だから。」

もう、この場にも居たくないから 本気で家に帰ろ。
踵を返して、歩く俺。
俺の行く道を遮った女。

「いい加減にして。」

「ごめん……澪緒君、ごめんなさい。」

「……もういいよ、気にしてない。
だから、帰らせて。」

俯いた女、……泣かせちゃった⁇
……一気に、自分が嫌になる。

俺は膝を折って、女の顔が見える体勢をとった。

「……泣いてる、訳じゃないね。
君には俺なんかよりもずっと良い人が居るから 俺で手を打つのは辞めた方がいいと思う。
今回のことは、お互い様。
俺も何処か悪かったんだろうし、君も色々 度が過ぎた。

それでいいね⁇」

女は頷いた、よし これで和解だね。
やっと、帰れる。

立とうとした、その時 思いっきり胸を押されて 不安定な体勢だった俺は 尻餅をついた。尻、痛えよ。

ネクタイを引っ張られる。
緩く締めてるから、苦しくはないけど……頸椎 圧迫されてる。

近づいた女の顔。
キスする気だね、でも ネクタイ掴まれてるから逃げられないな。

唇が重なった、女はネクタイから手を離し、俺の両肩を押さえた。

ゴツンー、と頭を地面にぶつけた。
あ、これは駄目なヤツ。前と同じことになる。

「ちょ、ねぇ……せめて、場所 変えよう、周りの目とか、あるし……、ねぇ。」

俺の声も御構い無し、って感じ。
……この子、結構 体重あるみたいで 俺の力じゃ どうにもできないんだよね。
己の非力さをこれほど恨んだこと、ないよ。

「ねぇ……⁇」

「神無月ィ!!!お前、この前 その手のことで指導受けたばっかりだろ!!!また、やってんのか!?!?しかも、校門前!校門は学校の顔だぞ!?!?」

何かと俺に突っかかってくる先生の登場。
でも、正直 本当 ありがたい。

「助けて下さい……。」

「他校生か⁇本校に用がないなら、帰ってもらいたい。
神無月 早く指導室。」

……え、嘘でしょ。
この前、指導された時に "次 指導されたら、保護者呼び出し" って言われてたんだけど。

それは、ヤバいでしょ。
てか、お母さん 厳しい人だから色々終わるんだけど。

先生の前とか、関係ないらしい。
また、唇を重ねてきた。

俺が嫌だよ、そんなんしてるところ先生に見られてさ。

「神無月!!!」

怒んないでよ、俺、どうにもできないんだから。
変に優しさ見せたから、こうなったんだ。

数分前の自分を憎んだ。

頑張って、俺が上になって起き上がろうとしても 頑として動かないし、上半身起こそうとしても この女が重いからかできないし。

何でこんなことになってるんだろう。
もう、何が何だか分からなくなってきた。

騒ぎを聞きつけたらしく 担任も出てきた。
俺が巻き込まれてるから、仕方無く、担任だから、出てきたんだろう。
この人、かなりの出不精だから。

「お前、校門前でプレイとかどんなだよ。」

ポケットに手を突っ込んだまま立って、笑ってる担任。

「お願いだから 助けて、俺じゃ非力で何もできないから……」

「しゃーねーなぁ。」

担任が俺の上に居る女を退かしてくれた。

立ち上がった俺は、直ぐに 肌蹴たワイシャツとか、ベルトとか スラックスのボタンとかを直す。

こんな、大勢の人が居る前でこれ以上 醜態は晒せないから。

「ありがとね。」

ガチャー、ってオモチャの手錠つけられた。担任に。

「いやいやいや、これ何⁇」

「逃げるでしょ、だから 先にね。
事情聴取するから、指導室においで。」

「事情聴取も何も……」

「言い訳するんじゃない!!!」

担任じゃない方に怒鳴られたし。
折角、予定無いんだから 家でゆっくりしたかったのに……。

仕方無く、先生に着いて行く。。

「あ、待って。
携帯 電源落としたい。取り上げられるの嫌だし。」

「神無月、お前 今 何処に立ってるか分かる⁇」

足元を見る。校門を丁度跨いだあたり。

「没収。」

「……泣いていい⁇」

余計な事言った、言わなきゃ良かった……。
俺、変に真面目だからさ。校則 守らなきゃ、って思っちゃったんだよ……。

この学校、携帯の持ち込みはいいけど、電源が入ったままだったら1〜2週間没収なんだよね。

「あの……‼︎」

俺は振り返った。そして、首を傾げた。
最初に俺を殴った美人。

「今回の元凶は私なんで、その……神無月さんは悪くないんです‼︎」

「庇わなくていいですよ、どうせまた、神無月が無闇に手を出して泣かせたんでしょう⁇」

そんなイメージ持たれてんのか、なんか 一気に悲しくなった。
まぁ、いっつもこの先生に指導されてるから……指導回数も馬鹿みたいに多いし……、仕方無いよね。

「違うんです、この子が先に手を出して……」

「ちゃんと、神無月から事情聴取するから 大丈夫。
心配しないで、こいつ 事情聴取には慣れてるから。

その隣の子は、お友達かな⁇
学校名とお名前 聞いてもいい⁇」

珍しく教師らしいことをする担任。

「松坂高校の時守奈緒です、この子は 向坂雛。」

松坂、って頭良いところのイメージだったんだけど そうでもなさそう⁇

やってることがこんなんなら、……ねぇ⁇

「松坂の時守さん、向坂さんだね。
ありがとう、じゃあ気を付けて帰るんだよ。」

歩き始める担任に遅れを取らないように俺も着いて行く。

「で、今回は何⁇もう、面倒だから 外歩くの辞めたら⁇」

「外出はさせてよ、引き籠るのは好きじゃないし。

端的に言うと、さっきの向坂さん⁇が俺のこと好きで告白されたんだけど、断ったの。そうしたら、襲われて。それが一昨日かな、一昨日か昨日の話。

今日、校門出たら 時守さん⁇に呼び止められて そうしたら色々誤解されたまま怒られたから誤解解いてたら 向坂さんが情緒不安定になっていって 押し倒されて ああなってた。って、感じ……です。」

伝わったかな⁇俺、説明 下手だからな……。

「まぁ、あんまり気に病むなよ⁇」

俺は頷いた。

俺、かなりの小心者だから 直ぐに考え込んじゃって、だんだん精神的に参っちゃうんだよね。
それを知ってる担任だからこその言葉だよ、今のは。

「神無月、19:00にお母さんが来て下さるそうだ。」

「……保護者呼び出し、ってことですか⁇」

「まぁ、身元引受け って感じだ。」

頭が真っ白になって、胃が痛い。少しでも和らげようと お腹を抑えるけど 何も変わらない。

「神無月、お母さんが来られるまで 違う話するぞ。

まず、校則違反の話から。
机の上に出ている携帯は、電源を切って 鞄にしまいなさい。」

言われた通りに携帯の電源を落として 鞄の中に入れた。
さっき、録音してるのを流したから 携帯使ってたんだよね。

「ピアスの穴、今 何個だ⁇」

「えーっと……、5個⁇」

「校則でピアスは禁止だ、閉じて来なさい。」

最近、ピアスするのも面倒だから あんまりつけてないんだけどね。
だから、もしかしたら もう閉じちゃってるかもしれない。

「次に、成績の話をしよう。」

……え⁇なんで、今 ここで⁇
確かに、この先生 進路指導部だけど、さ。

"お前、いっつも 進路指導 サボって帰るからな、今は 逃げたりしないだろ⁇" って言われた。

確かに、進路指導 いつもシカトしてる……。

「今回の模試、何だ⁇アレは。
酷すぎるんじゃないか⁇」

「……すみません。」

確かに、すっごい悪かった。
全教科 偏差値5くらいずつ落ちてたし。

「周りも勉強をしているから、お前も勉強しなきゃ 点が取れなくなってきているんだ。
身に染みて、分かったな⁇」

俺は頷く。

「志望大、このままだと第1には行けないぞ⁇」

「……はい。」

そんなこと、志望校判定見たら分かるし。

「あと、数学の悪さは何だ⁇
次の模試で、数学の偏差値60を超えろ。
そうじゃなかったら、毎日 ここで自習して帰れ。」

……マジかー。
偏差値60って、結構 高いよ⁇
まぁ、第一志望校 偏差値67なんだけど。

「返事は⁇」

「はい、頑張ります。」

暫く、勉強漬けの日々になりそうですね。

「じゃあ、話は終わり。
お母さんが来られるまで、あと少し 勉強でもしてなさい。」

先生は立ち上がって、部屋から出て行った。
残ったのは、担任。

「お前が勉強する姿なんて想像もできねーな。」

「俺も。」

課題、やってて 分からないところあったから、質問してみた。

「てか、これ数学じゃねーかよ。
俺、担当 英語なんですけど⁇」

「いいじゃん、国公立大出身なら できるでしょ。」

「分かるけどさ……、間違ってても責任取らねーからな⁇」

そう言って、教えてくれた。
答えがあってるから、多分 合ってる。

そうこうしてたら、先生とお母さんが部屋に入ってきた。
……もう、19:00か、時が経つの早。

お母さんは俺の隣に座った。
そして、先生と担任が向かい側に座る。

「わざわざ、お越し頂き 申し訳ございません、今回 澪緒君なんですが、指導回数が10を超えたので 保護者呼び出し という形を取らせていただきました。

指導内容、主に 遅刻・異性との交際についてです。
もう何度も澪緒君には話をしています。
私たちの言いたいことは、全て 分かってくれているとも思います。

ただ、今日 起きたことについては保護者の方に話しておくべき事柄だと思いますので、掻い摘んで お話させていただきます。

他校生女子生徒と揉めていたんですね、校門前で。
教師がそのことを聞きつけて、現場に駆け付けた時 その女子生徒に澪緒君は……所謂 襲われている、というようなことでした。

一歩 外を出れば、私たち教師の目には届きにくくなっています。

今回のことで身を以て 色々分かったんじゃないか、と思っています。

これからの澪緒君の行動、宜しければ お母さんの目からも注意して見ていただければ と思います。」

「……分かりました。」

「以上です、わざわざお越し頂き ありがとうございました。」

お母さんと一緒に帰ることになる、まぁ、必然的にね。

「わざわざ呼び出されたんですけど。」

「ごめん。」

「保護者呼び出しされない程度なら 何してもいい、っていう約束だったよね⁇」

「ごめんなさい。」

「パパも心配してる、っていうか怒ってるから。」

うわー、話通じないんだよね、父親。最悪。

その後、会話はほぼ無い。
お互いに自分の携帯触って、それしか見てないから。

家に帰ってから、事情をよく知らない妹達に色々 罵声浴びせられて、俺 対 俺以外の家族(父親・母親・碧生・吏夷)で言い合いになった。
そんなん、勝てっこないじゃん。
途中から、俺が泣き出す始末。
"泣いて許されよう、とか思ってんの⁇" って、余計に色々 言われたし。

最後は存在を否定されたよね、うん。

「家に帰ってくんな。」
「お前なんて、見たくもない。」
「部屋から出てくんな。」
「死ね。消えろ。」

散々でしたね、俺がもう耐えられなくなって リビングから出た。

それからも、4人は俺の悪口言い続けるし。
手短に風呂に入って、自分の部屋に籠って電気を消す。

もう、寝よう。
でも、4人の言う俺の悪口が 家の壁薄いからか 部屋に居ても聞こえる。

イヤホンして、音楽聴きながら寝る。

暫くしたら、眠れた。
バンッーと、突然 ドアを開けられて、電気を点けられた。

俺は目が覚めた。

「寝るの早すぎ‼︎勉強しろ!!!」

俺は、座り込んで 頭を掻いた。
メチャクチャ怒ってんじゃん、てか 見たくもない俺は 部屋に籠ってたのに自ら喋りに来てんじゃん。

意味分かんない。

「明日、朝起きてから 勉強するから……」

俺はそのまま寝転んだ。
ゴツンー、とベッドの縁に頭をぶつけた。痛すぎ。

でも、眠気が凄すぎるから そのままグダァーってなって、寝た。

アラームの音で 目が覚めた。
身体中 寝違えた、こんな凄い格好で寝てたから。

4人に会いたくないから、4人を起こさないようにこっそりと学校に行く用意して いつもよりも断然早い時間だけど 学校に行った。

そうしたら、たまたま学校の最寄駅で時守さんに会った。

「朝、早いんだね。」

誰かを待っている、探しているようにも見えた。

「……えっ、あぁ 神無月さん、ですよね⁇」

「はい、神無月です。」

「神無月さんを探してました。
昨日は 本当にすみませんでした、嫌な思いもたくさんさせてしまいました。
お詫び、と言ってはアレですが 何でも 言うこと聞きます。」

何でも言うこと聞く、って言われてもな……。

"できないこともあるかもしれないので、お手柔らかにお願いします" と付け加えてたけど。

……これで、手を出したら また指導されるよな。
なんか、俺が女子と必要以上に仲良くしてたら 直ぐに遊んでる、とか言われるし。

そんな言いがかりつけられるのが嫌で、最近は彼女も作ってない。

「いや、大丈夫ですよ。
時守さんが気にすることでもないと思う。

きっと、俺が悪かった。」

「でも……」

なかなか喰い下がらないね、この子。

「聴き分け悪い人は好きじゃないな……」

ボソッと呟いた。
多分、相手には聞こえてない。

「何か、言いましたか⁇」

「……ん⁇何も⁇」

流れるように嘘を吐いた、まぁ いつも通りのことだけど。

「時守さん、頭良い⁇」

松坂の1番頭良いコースだと、かなり偏差値高いから。
時守さん、頭良さそうだし。

「……抽象的ですね、まぁ 成績は良い方のつもりです。」

「……良かったら、勉強教えてくれない⁇」

驚いた顔をする時守さん。
そんなに驚くかな……、嫌なら 嫌って言ってくれていいんだけど。

「私で良ければ……」

「ありがとう、連絡先 交換して大丈夫⁇」

LINEを交換したから、これで簡単に勉強教えてもらえる。

「じゃあ、また……分からないことあったら LINEします。」

「はい、頑張って 教えられるようにします。」

それぞれがそれぞれの学校へ向かう。
松坂と七ノ峰、行き来できる距離だけど 遠いからね。

七ノ峰の最寄駅に居たってことは、わざわざ来てくれた、ってことだよね。

初対面でイキナリ殴られたけど、良い人じゃん。

学校着いたら、既に ずっくん(細静貴)居たし、ずっくんとワーワー言って 時間潰した。

授業は適度にサボりながら、1日終わり。

放課後、ストレス発散の為にスタジオに行って ギター掻き鳴らした。

3時間パックを1人で使い切った。
時間 精一杯、目一杯使って ストレス発散してた。って言っても 時々、休憩して 備え付けのドラムとかキーボードで遊んだりもしたんだけどね。

昨日のとか どう考えても俺が悪いんだけどね。
分かってても、怒られたりとかしたらストレスって溜まるから。

ドアの近くにあるランプが点灯したから、そろそろ終わりの時間だね。

延長料金とか取られたくないし、さっさと片付けをする。

スタジオを出て、駅へ向かう。
ここからだと、バスターミナルから乗ったほうが確実にバスで席 座れるからね。
ちょっと、くらい歩いたほうがいいのかなー、なんて思いながら。

登校は、バス降り逃しちゃって 終点のバスターミナルまで行っちゃって、色々な電車の線が止まる総合駅と併設してるから その駅構内で軽くご飯を食べようとしたら たまたま時守さんに会ったんだよね。
俺、基本はバイク通学だし 今日は荷物多すぎて 登校中に荷物落っことしそうだから バスで登校した、って感じ。

すっごくお腹空いたから 帰るまでの小腹満たしに何か食べたいなー、なんて 考えながら 駅の中をブラブラ。

ブラブラしてると、しつこくナンパされてる人を見つけた。
まぁ、人がたくさん集まる分 必然的に良い人も悪い人も集まってくるよね。

ご愁傷様です、ってことで。

その人たちの近くは皆 避けて通るけど、人混みを避けたい俺はその近くを通る。

「あっ、あの人と待ち合わせしてるんです‼︎神無月‼︎」

え、呼ばれた⁇声のした方を見ると、そのナンパされてる女の人に手招きされてるのに気づいた。
マジかよ、巻き込まれたし、てか、何で俺の名前知ってんの。

仕方ないから、関わりたくなかったけど 近づく。

よく見たら、ナンパされてんの時守さんじゃん。

「……奈緒、何してんの。」

時守さんの下の名前って、 "奈緒" って言ってたよね⁇
ちょっと、緊張しちゃって 声が上ずる。

「ほら、待ち合わせ相手来たので 失礼します。」

「何この子は、背ェたっかいし スラックスだけど……男装女子⁇」

「俺、男ですけど⁇
そっち系の趣味もないし。

……テメェ等は、何してんだ⁇」

ちょっと、イラっとしたから 思いっきし ガン飛ばした。

「彼氏居る、って知らなくて……その……すみませんでしたァ!!!」

走るように逃げ出した男。
あーゆうタイプが1番嫌いかも、俺。

「彼氏、だって。面白いね。」

「そう⁇てか、時守さんの下の名前 "奈緒" で合ってるよね⁇」

時守さんはニコッと笑って、

「合ってるよ、れーお⁇」

普段綺麗な顔、大人びた雰囲気を纏ってるクセに笑ったら 一気に可愛くなるとか、何だよ この人。

下手な芸能人よりもよっぽど可愛い。

「俺の名前、覚えてたんだ。」

「そりゃあ、LINE見たら。
ユーザーネーム、 "Leo" じゃん。

これ、名前表記 合ってる⁇」

そんなところ、見てたんだ。笑
なんか、恥ずかしい。

「うん、スペル合ってるはず。」

「へぇー、外人みたいだね。」

まぁ、日本名はほとんど ラ行だとR使うもんね。

「奈緒、って呼んでいい⁇」

「うん、全然良いよ⁇
んじゃあ、私は澪緒って呼ぶね⁇」

「どうぞ⁇奈緒。」

何処か可笑しくて、2人して笑う。

「いつの間にか、タメだね。」

「まぁ、いいんじゃない⁇」

「ねぇ、今から付き合ってよ。」

突然の発言に、俺は吹き出した。

「誤解招くようなこと、イキナリ言わないでよ、本気で……心臓に悪すぎ。」

「うわー、引くわ。
そんなんだから、昨日みたいなことになるんでしょ⁇」

「自分の行動、開き直らないで。」

俺は持ち直して、平然を、装う。

「で、何処行くの⁇」

「ご飯、食べに行こ⁇」

「え、うん、いいけど……そんなに持ち合わせないからね⁇」

「いいからいいから‼︎」

奈緒に引っ張られて、……まぁ 俺に拒否権はないらしい。

とりあえず、お母さんにLINEで "晩御飯要らない" って送った。
変に誤解されたら嫌だから、 "外で食べてくる" とも。

連れて行かれたのはオシャレなレストラン。
高層ビルの高い階にあるから、夜景とかも見えて綺麗。

今の持ち合わせで足りるかな⁇

「もう、料金は前払いしてるから 安心して。」

「……後日 返します。」

「気にしないでいいよ、だから これから起きることもあんまり気にしないで。」

軽くご飯を食べた後に、電気が落ちて 火の灯った蝋燭が立ったガトーショコラ的なケーキが運ばれてきた。

プレートには、 "Happy Anniversary 〜TWO Years〜 " とチョコペンで彩られている。

奈緒の悲しそうな目から、大体のことは察した。

「ごめんね、澪緒、巻き込んじゃって。」

「……気にしないで。」

2年記念日どころか、出会って2日記念日だよ、馬鹿野郎。

「今日、別れたの。
でも、サプライズしたくて、予約してて……折角作ってもらったケーキを台無しにするのは淋しくて。

だから、気にしないで食べて。」

「……今日を俺との記念日にしよう。これは気が早すぎて 作ってしまった、そう思うのは……どう⁇」

我ながら、何言ってるんだろう。
咄嗟に口を継いで出た言葉。

奈緒は驚いた顔をして、そして泣きそうな顔をした。

「ごめ、やっぱ……」

そんなことしても、傷は癒えないよね。
変なこと言った、本当……申し訳ない。

「ううん、そうしよう。
なら、ここをこうしよう⁇」

奈緒がペーパーで " 〜TWO Years〜 " のところを拭き取った。
3回くらい拭くと、何か書かれていたなんて分からないくらい綺麗になった。

「よし、写真撮ろう。
こっち来て、澪緒。」

そうやって、撮った写真。
奈緒がどこからどう見ても作り笑顔だったけど 今日という日の思い出、だよね。

「美味しかったね。」

「……うん、ねぇ 奈緒⁇」

俺の前を歩く奈緒が 立ち止まって 振り返った。

「付き合う、んだよね⁇」

「何ー⁇澪緒が言いだしたことでしょー⁇」

「いや、あっさりと行きすぎて驚いて 現実味が無くて……」

フフッーと笑う奈緒、とても儚げで 触れると壊れてしまいそうで。

「同情して言ってくれた、って分かってる。
でも、そんな澪緒の言葉にも縋りたいほど 今 傷ついてるの。

それほど、好きだったんだ……元カレのこと。」

「思う存分、利用していいよ。
俺に何ができるか、分かんないけど。」

奈緒は俺に抱きついた。

「……ありがと。」

奈緒の身体を抱き締めた。
華奢で小さい身体が小刻みに震えている。

……泣いてるのか。

奈緒、なんとなくだけどプライド高そうだし 泣き顔なんて 誰にも見られたくないんだろうな……。

離れようとした奈緒を無理矢理、俺の方へ引き寄せる。

「……口下手で、何も言えないのがもどかしい。
けど、俺 奈緒の為だったら 何でもするから。

嫌なことがあったら、俺に八つ当たりしたらいいよ。
それで、奈緒の気が収まるなら。

淋しい時は呼んで⁇
いつでも駆けつけるから。

いい⁇」

頷いた奈緒。
素直なの、可愛いな……。

不意に奈緒が顔を上げて、目が合う。
泣いていたから、顔はグシャグシャで目元とかも赤い。

だけど、そんな奈緒も凄く 愛おしいと思った。
キスしたい……、けど、イキナリはされたくないよね……。
付き合ってる、って言っても 出逢ったのは昨日だし。

まだまだお互いのことは何も知らないし。

「キス、したいんでしょ。」

「……バレた⁇」

俺は恥ずかしさのあまり、目を逸らした。

「していいよ、澪緒⁇」

「……無理、してない⁇」

「うん、してない。」

俺は奈緒の顔に自分の顔を近づけた。
至近距離でお互いの目が合う。

そして、唇を重ねる。

少しして、直ぐに離れた。
けれど、また唇を重ねる。

少し重ねて、直ぐ離れる。
でも、また直ぐに重ねて……。

俺は奈緒を強く抱き締めた。
まぁ……これ以上、キスを続けたら 色々 我慢できそうになかったから。

「夜も遅いから 家まで送ってくよ。
……奈緒の家、何処か知らないけど。」

「最寄駅、一緒だと思うよ。」

「……マジで⁇」

「うん、今までも 何度か 澪緒のこと見かけたことあったもん。」

……俺の格好、特徴的だしな。
男で髪伸ばしてる人自体少ないのに、更に髪色 銀だし。

「まぁいいや、付いてくから。」

奈緒の言う通りに、付いていった。
本当に最寄駅が一緒なのは驚いた。

まぁ、そこから行く道は正反対だったけど。

駅で降りてからは、ずっと手を繋いでた。

"澪緒、違う方向に歩いて行って 迷子になりそうだから その対策" らしい。