ビブリオバトル当日、図書室につながる多目的エリアは立ち見が出るほど人が集まっていた。沙織と羽鳥が声をかけてくれたせいか、2年生が特に多い。

図書委員で慌てて椅子を増やすが、発表者はいいよと美雨は隅に追いやられた。自分を含めて5人の発表者と最終的な流れの確認をしても、開始まで少し間が空いた。

周りの配慮はありがたいが、することがなくなると緊張が高まってくる。

気づいた羽鳥が「緊張してる?」と壁際でうつむく美雨に声をかけてきた。

「お腹痛くなりそうな気がする」

「大丈夫だって。もともと言ってたバトルやりたいってのはもう叶ってるじゃん。あとはオマケみたいなもんだと思えよ」

「オマケ?」

これから本番だ、失敗しちゃダメ、と思っていたのにオマケってどういうこと?

改めて会場を見渡してみる。放課後イベントの開始を待つ、楽しげなたくさんの顔。こっそり憧れていたイベントが現実になっている。人が集まってくれてる。

見える世界がぐらっと揺れた気がした。本番はもうやってきていて、もうすでに叶っている? そう思ったら、真新しい気分になれそうだった。


「これはテストとかじゃない。誰にも落とされたりしない。ゲームみたいなもん」

会場に目をやりながら羽鳥は言う。

「ゲーム?」

「ただ面白ければいいってこと。ダメージ受けても経験値が貯まればいいって」

「ゲーム」と美雨も壁から立ち上がった。美雨はTVゲームをやらないが言われたことの意味はわかった。美雨にはハードルの高いゲームだとしても、少し気が晴れた。

「羽鳥に向かって話してもいいかな。練習通りに、やれるように」

美雨の声に力が戻ってきた。

「気楽に、な」と羽鳥が口角を上げた。