驚くほどスムーズに素早く準備が進みはじめたビブリオバトルは、「面白そうだね、見に行く」と言ってくれる人は多いもののやはり出場者確保には苦戦した。準備期間も少なく、初めてのイベントということで様子見をする人が多いのだ。

図書委員からも1人出した方がいい、提案者の中園さんにやってもらおう、と委員会での話が進んだ。

強く断らなかった美雨を沙織が心配してくれる。

「美雨、できそう? 私が代わろうか?」

「沙織が紹介する本って何? 少女マンガ?」

部活帰りに合流した羽鳥は今日も感じが悪い。

「私だってちょっとは読むよ。健吾だって本棚全部宇宙人の本のくせに」

「全部なわけあるか」

沙織は羽鳥のうちに行ったりしてたんだなぁ、と付き合ってたという事実を知っていてもまた少し驚いていた。

「やるだろ?」

「う、うん」と美雨は歩きながらそれだけ答えた。

前にニュース番組の特集で見たときから、好きな本について話すなんて楽しそうだと思っていたのだ。でも自分で発表したいと言い出す勇気はなくて、むしろリトのおかげで発表者になる流れになったのかもと感じていた。




イベント準備ということで、学校で羽鳥と話す機会も増えた。2人になったときにこそっと言う。

「あのね、しばらく羽鳥は来なくてもいいかも」

「なんでだよ。親となんかあった? 」

そういうことではなかった。沙織に悪いような気がするだけだが、それは美雨からは言えない。

「そんなんじゃないけど、羽鳥も忙しいかなって」

「迷惑だって言うなら行かない。でも俺はこれが今一番面白いことだから」

「それならいいんだけど」

まっすぐ言い切るときの羽鳥は苦手だった。友達の好きな人と手をつないでいる。それはいいことだとは思えないのに、迷惑だとも言い切れない自分が嫌だった。