黙ったところで「沙織!」と羽鳥が声を出した。廊下とつながった多目的エリアに珍しく1人で沙織がいる。

「ちょうどよかった、探してたんだよ」

探してた?とちょっと美雨はギョッとする。

「俺、図書委員の手伝いするみたいだから沙織も手伝って。本読みバトルだって」

「なんで健吾が?」

怪訝そうな沙織に「町村に頼まれた」と簡潔に答えている。

「そういえば町村先生って陸部の副顧問だよね、断れないね。でも突然どうしたの」

沙織はわざと美雨を見ないようにしてる気がした。

「中園の企画なんだってさ。うちのクラスでやれってことで俺が呼ばれたんじゃないの。てことで図書委員さん、よろしく」

「なにそれ、先に言ってよ」

拗ねたような沙織は、やっぱりかわいい。羽鳥は慣れたようになだめる。

「だから探してたんだよ。どこか行ってた?」

「数学の補習。健吾が教えてくれるなら協力するけど?」

「いいよ。後で見せて」

羽鳥が受け合うと、沙織はやっと美雨のほうを向いた。

「美雨はどうしたの? もう内申狙い?」

沙織らしくない棘のある質問に、美雨は小さくなる。

「うそうそ、ほんとに本好きだもんね。で、どういう話?」

言うだけ言った沙織は、多目的エリアの空いた机に座り、美雨が手にしていた提案をさっさと読み始める。

途中で町村先生が出てきて「あ、早速萩原さん捕まったの? 頑張ってね、中園さん」と声をかけて行った。

羽鳥がうまく話してくれたおかげか、沙織の棘は抜けたらしい。この3人でイベント企画とか楽しそう、明日3年のクラスに話しに行こうと話を進めてくれた。