かくして、放課後は美術室を使わせてもらうことになった
今は春。上を向くタンポポがとても綺麗だったから、タンポポを描くことに
普通に描いても面白くないから、下からタンポポを見上げる視線で描くことにした。
まさにアリ目線
納得いく色が出ないからかなり時間がかかる。
描き始めてから、5日目。
今日はできそうな気分だと、るんるんで美術室に行った。
早速、作業に取り掛かると、
米田先生と鈴木晴がダンボールを抱えて入ってきた。
「ごめんねー、鈴木くん。暇そうだったから」
「いいすよ、暇なんで」
「そう?ありがとう。あっ、瀬川さんと鈴木くん、飴食べない?」
「…味は?」
ぶどうか、みかんでありますように
「グレープとパイナップル」
「グレープ!」
「ほい、瀬川さんグレープ好きねぇ。
鈴木くんは?」
「あ、俺もグレープで」
うまうま。やっぱ糖分大切。
「瀬川海、美術部なん?」
「んーん、描いてるだけ」
「へー、見して」
見ても面白くないぞ
「そんな変な顔すんな」
「うまれつきですー」
「ははっ、おもしろ」
あっ、いい色が出来た。
ぺたぺたと塗っていく、ふんふん
結局その日の部活が終わる時まで鈴木晴はいた。
「暗いから送る」
何を言うんだこの人は
「いいよ、おかまいなく」
「瀬川海おもしろいから」
「どゆいみ」
「友達作ったりつるんだりしないん?」
「優先順位が下」
「へー、俺はあんたと仲良くなりたいけどな」
「仲良い方だと思うけど」
「……ほー」
「鈴木晴って変な人だね」
「晴でいいよ、変な人ってのは海だけには言われたくない」
「どゆいみ」
「…」
「あ、うちこの近くだからありがと、またね、晴」
「お、おう…」
「ん?どうした、顔赤いよ」
「うるせーよお前が悪い」
「えっ?」
晴が私の頭をぐりぐりする
「ちょっ、どうした」
「いや…」
と言ってくしゃくしゃになった髪を撫でるようにとかした
くしゃくしゃにして元に戻すとな
よくわからない
ちょくちょく、晴は美術室に来る
大概は寝るか絵を見るか
誰かに絵をまじまじとみられることがないから恥ずかしい
けど、悪い気はしない
「じゃな、今日は送っていけない悪いな」
「いいよ、別に」
「……お前はそういうやつだよ…うん」
「…?おうよ」
ふんふんと作業再開
帰り際にバックについてるキーホルダーがなくなってることに気づいた
あれ…ない
どこに落としたんだろう
海がモチーフのキーホルダー
うう…ない
校内をすこし探してみてもなかった
次の日、どんよりで教室に入る
お父さんが小さい頃買ってくれたキーホルダー…
きっと見つかるまで落ち着かない
はぁ…
席に座ると背後から
「海、これお前のじゃない?」
晴の手には海のキーホルダー
「おおお!これ私の!どこにあったの?」
「下駄箱の…」
「え〜?晴くん、知り合いなん?こんな芋っぽいのほっときなよ〜」
うわあ女の子ががやがや集まってきた
晴を見る目は甘いのに私を見る目は鋭い
「晴、とりあえずありがとう!」
「うちらのことはみんな名字のクセに〜、なんならあたしの事も美優って呼んでみなよ〜
」
「ははは、宮崎さん」
晴がこの後なにかを言ったのはわからないけど、女の子の黄色い声にかき消されてわからなかった
名前で呼ぶの私だけなんだ
小中から今まで、こんなふわふわ嬉しいの初めてだ
初めて海に行ったとき、着くまで車の中でこんな気持ちだったなぁ
お昼ご飯は1人
みんなは食堂で教室にひとりでもあまり浮かない
前から
「うーみちゃん!おれ新庄佑雨といいまーす」
「あ、美形マン」
「美形マンってなんじゃい」
「まあまあ」
「晴が女に興味持つなんてどんなやつかと思って見に来ました〜」
「…?ふうん」
「それ、スケッチブック?」
机の上のクロッキー帳を指す
「クロッキー帳」
「へぇー、絵描くんだ
みてもいい?」
なんでそんな見たがるのかな
「複雑な顔してんな」
「…いいよ」
ぱらぱらとめくっていく。
花やらなにやらが描いてある
ぴたっと新庄佑雨の動きが止まる
「これ…晴?」
「うん」
「海ちゃん上手いね〜」
「モデルもモデルで綺麗な人ですからね」
「今度さおれの…」
「佑雨、お前海になにしてんの」
あ、晴だ
「おー、綺麗なモデルどん登場やな」
「あ、それ俺じゃん」
「海ちゃん、絵上手いね」
2回目、ありがとう
ぶるぶるっ、視線が痛い
ああ、この2人と話してるからか
席を立って一人になるとギャル軍団にかこまれた
「瀬川さん、ちょっといい?」
「??」
ついていって、来た場所は体育館の裏
「あのさ、気づいてないからいうけど、あのふたりはみんなの2人なの」
「どゆいみ」
「だからぁ、手を出さないでくれる?あんたみたいなドブスが近づいていい人じゃねぇんだよ」
「私はドブスかもしんないけど、生まれ変わってもあんたらの顔に生まれたいとは思わない」
「んなっ…黙れよ!!」
あっ、殴られる
後ろから、
「はははっ、ストーップ。うーみちゃんなにしてんのー?」
あ、新庄佑雨
晴じゃないかちょっぴり残念
「海ちゃんおもしろいね、いこうか」
と私の手を引いてこの場から連れ去られた
「なんでついてっちゃうかな〜、危ないでしょ」
「?気をつけます、新庄佑雨、ありがとう」
「今どきフルネームかよ、佑雨でいいよ」
新庄佑雨が爆笑する
なんで?
そのまま、教室に腕を引いていったから晴を囲む取り巻きはぎょっとしてる
晴もすこし驚いている
「海ちゃん、軍団にリンチされてたんよ」
「海、大丈夫か?」
「うん!ピンピンですぞ」
「でね、海ちゃんおもしろいの、ドブスって言われて否定せずにでも生まれ変わってあんたらの顔には生まれたくないって啖呵切ったの」
「ははは、海らしい」
ああ眠くなってきた
午後の授業はもうそれは睡眠
元々寝てる人が多いからなにも言われない
先生ごめんね、今日だけ
真面目に受けるから
睡眠時間をたっぷり取ったので放課後の絵は順調
……ってわけにもいかなかった
晴が機嫌悪い
なんでじゃ
「はーるーー?なんでむすっとしてんの?」
「海、ごめん、リンチにあったの俺等のせいだよな」
「晴のせいじゃないよ」
「……佑雨じゃなくて俺が…」
「え?なんて?」
「いや、なんでも」
晴side
佑雨が海の手を引いてきたとき、モヤッとした
なんでだろう
リンチにあったこと聞いた
男だったら殴ってる、女だからやっかいだ
海が絵を描いてる姿がなんとなく好きでちょくちょく見にいってる
今日も絵を描いてる向かい側で見てた
形のいい奥二重、筋の通った鼻、ぷっくりした唇
特段美人というわけでもないが、不思議な魅力がある
「ねぇ、晴ってさ彼女いたことないんでしょ、女の子たちが言ってた」
「うん、ないよ」
「あ、わたしそういうの偏見ないから大丈夫だよ」
……?
「ちげぇわ、俺はホモじゃない」
というか気になる人はいますけど。とか絶対言わない
「へぇ、そうなんだ。」
こいつになにか計算があるわけじゃないから期待するだけ無駄か
ん?期待ってなんだよ