「そっか。できるなら自分で"善意のヒーロー"を見つけたいから、朱里さんは黙っててくれますか??」
「もちろん!!」
好きな人に最悪な事をされて、気まずい話し合いだったはずなのに、ほんの数分でこんなにも高城さんと笑い会えてるなんて……
きっと鶴橋くんの事がなかったら、きっと高城さんとこんな風に笑い会う事もなかったのかな………
そう考えると、ほんの少しだけ鶴橋くんに感謝する事ができた。
高城さんと笑いあっていると、ふと、私の視線がある物に釘付けになった。
それは高城さんの制服のポケットから飛び出てるストラップ。
鶴橋くんとお揃いで買った猫のストラップだった。
「高城さん、私もその猫のストラップ持ってるよ! ほら!!」
と、自分のスマホを取り出し、つけてる事を見せてみた。
「もっとカワイイの今度買いにいきましょう??」
どこまでも鶴橋くんを嫌がる高城さん。そんな高城さんとの会話は楽しかった。
――そして、鶴橋くんともいつも通りを装いながら一緒に帰る日々が続いた。
もしかしたら高城さんの事を白状してくれるかも、と思い、
「鶴橋くん。私、高城さんが同じストラップをしてる所目撃したんだ………」
遠回しに高城さんの事を聞いてみた。
本当の事を言ってほしかった。
だけどその願いも叶うこと無く、笑いながら、
「そんなのたまたまでしょ。俺は朱里だけだよ。だから、これからも俺に尽くしてね??」
――私に平気で嘘を吐き続けた。
本当の事を言ってくれないなら、私もこれ以上は聞けなかった。だから鶴橋くんが嘘を吐いたように『うん、尽くすよ』と、私も平気で嘘を吐く。
鶴橋くんはどこまでも、高城さんとの関係を黙っているつもりらしい。
どうして私と高城さん、二人が必要なのだろう。
でもそんな事を考えるだけ時間の無駄だ。
もう鶴橋くんの事で心を痛めたくない。
――それに、もうすぐこの関係は終止符を打たれるんだから。
◆◇祐樹Side◆◇
朱里か高城が殴られる。
しょうがないと思っていたけど、いざ、どっちかが殴られる事を思うと、やっぱり俺はどうしても我慢できなかった。
だから朱里を連れ去って想いを伝えた。
『好きだ』とも伝えたけど、それは所詮、俺自身の身勝手な告白なんだ。
『朱里』が殴られる。
自分から言い出した時、やっぱりイヤでイヤで。
せめてもの償いで朱里に俺を殴るように伝えたけど『私は手をあげる事はしたくない』と、頑なに俺を殴る事を拒んだ。
″私は散々鶴橋くんに殴られてきたから、大丈夫″
……まったく、強がりやがって。
………大丈夫なワケないだろ。
朱里、俺が言いたい事はそうじゃないんだ。
そうじゃないのに。違うのに、その事を言葉にできなくて。
言葉っ足らずな俺はただただ、朱里を抱きしめる事しかできなかった。朱里は俺を慰めるようにポンポンと優しく背中を撫でてくれた。
情けない。
…………本当にゴメン。
……朱里は鶴田から殴られる覚悟でいるかもしれないけど、俺は絶対に朱里を守ってみせるから。
近くにいる時くらい、朱里をちゃんと守れる男になりたいんだ。
***
高城にも伝えなきゃと、今日はワザとお腹が痛いと仮病を使って部活を見学する。
正直部活をしている場合ではない。
この日は良太が部活体験に来ていて、もう先輩達と仲良くバスケをしていた。
……やっぱり良太は人から好かれる。
先輩達と仲良くなってる良太を凄いと思いながら、その光景を、俺はただただボーッと見ていた。
当然部活をしている場合ではない俺は、ボーッとしている場合でもなくて、『和谷くん大丈夫?? お腹痛いんだって?』と、話しかけてきてくれた高城を逃がさまいと、『イテテ………』と、ワザと大袈裟に演技をしてみる。
俺の演技にまんまと引っ掛かった高城は『大丈夫!?』と心配してくれた。
『大丈夫』と頷きながらも『でもまた痛くなるかもだから』と、高城に隣に座るように言う。
こうでもしなきゃ、高城が離れて行ってしまう。
……計画の話ができなくなってしまう。
だから俺は高城に作戦の事を話した。
練習試合の後に鶴田とワザと鉢合わせする事と、朱里が鶴田から殴られるように仕向ける事。
……そして証拠を掴んで、鶴田に言い負かす事。
高城は俺の話を黙って聞いてくれて、話し終わった後に不安そうな顔をしている事に気が付いた。
「それで鶴橋くんとの関係が終わるとは思えない」
高城の不安と本音。
正直俺も、それで関係を終わらせる事ができるなんて100%は思っていない。
でも良太は100%終わらせる気でいる。
完全に終わらせる気でいる良太を見てたら、大丈夫って思う事ができるんだ。
「鶴田の執着がスゴイのは分かってる。だけど、その関係を終わらせるように俺と良太は戦うから。頑張るから。だから、信じてほしい」
……だから、高城も終わらせられるって本気で思っててほしい。
***
ついにこの日がきた。
俺達の高校の練習試合。
……そして、絶対に失敗するコトができない大事な事を控えてるからか、緊張がMAXで昨日の夜、全然眠れなかった………
でもそれは良太も同じだろうと思っていたのに、『和谷くん、凄い疲れてる顔してるけど、一人だけ先に試合でもしたの??』と、俺に毒を吐く余裕さ。
……どうやら、俺とは違ってぐっすり寝れたらしい。
「何でそんなに余裕なんだよ、まったく………」
そうボソッと呟くと、『和谷くん、実は作戦ビビってるんでしょ??』と笑いながら聞いてきた。
「………当たり前だろ、ビビりまくりで全く寝れなかったんだけど!!」
『だから良太、元気付けてよ』と、全く頼りない事を言ってしまう俺に、ハアーと深いため息をついて見せた。
「そんな弱気でどうすんのさー、試合と同じだよ和谷くん。前もって準備や用心をしていれば、ある程度は失敗しないで済むよね。俺は用心見越して準備してるワケだし。なんなら、やってやるくらいの気持ちなんですけど??」
……悪かったな、俺は何の用心もしてないし、準備なんて全くしてなくて!!
……まあ、鶴田から殴られる準備だけは、心構えしてきたけど。