だからそれは、愛じゃない。




「……本気で?」


「本気の本気の本気でお願いします」



 今私は、幼馴染みの祐樹に向かって土下座の真っ最中。


 文化祭の時に鶴橋くんに恋してしまい、最近鶴橋くんに彼女がいないという情報を知り得る事ができた。


 だから祐樹に繋がりを作ってほしくて、家に来て土下座までしてお願いしているのに、


「つーか、誰。鶴橋くんって。俺知らないんだけど。朱里がガンバレばいいじゃん」


 なかなか上手くいかない。
 他人事な祐樹に悪戦苦闘中。


 ……ガンバレないから祐樹に頼んでるんじゃん。


 いつもは色々言いつつも『しょうがないなー』ってお願い事聞いてくれるのに、今日は色々どころか、最初っから協力してくれる様子がない。


 ……そういえば私、祐樹に恋愛相談するの初めてかもしれない。






「つーか、鶴田と仲良くなれなんて何だよ急に。朱里が好きなヤツいるなんて初耳なんだけど」


 つまらなそうに、机の上に置いてあったスマホをイジり始めてしまった祐樹。


 ……祐樹が知らないのも当然だ。私は『鶴橋くんを好き』という事は誰にも言ってない。


 今初めて誰かに打ち明けた。
 だからこそ、祐樹には応援してほしいと思っていたのに……



「あのさ、鶴田って――『鶴田じゃなくて、鶴橋くん!! お願い! 早くしないと鶴橋くん彼女できちゃうよー!』



 私が土下座しているのに、見てみぬ振りをするので『今しかチャンスがないの!!』と必死に両手を合わせて頼んでみる。



「朱里の恋愛事情とかムリ。マジでムリ。本気でムリ。協力なんて本気でしないから」


 ”本気でムリ”この言葉を強く吐き捨てては、『これ以上、その話すんな』と、机の上のおせんべいをボリボリと食べ始めてしまった。



 まるで私の声をかき消すように、それはもうバリバリボリボリと。



 祐樹しか頼れる人がいないのに…………


 私の気持ちを、ちっとも分かろうとしない祐樹に腹が立ち、『もういい!!』と、怒り任せに祐樹の家を後にした。






 頑なに私の恋愛を協力してくれない祐樹にムカつきながらも、翌日。


「ねー、萌ちゃん!」


最終手段。友達を頼ってみる。



 萌ちゃんは人懐っこくて超カワイイ。だから、彼氏が途切れる事はない。



 萌ちゃんに鶴橋くんが好きな事を相談してみると、『やっと朱里にも好きな人ができたのね! ちょっとリサーチしてくるね!』と、もうすぐホームルームが始まるにも関わらず、嬉しそうに教室から出ていってしまった。


 祐樹とは違って、すぐさま行動に移してくれる萌ちゃんに罪悪感を抱きながら自分の席へと着く。


 ――しばらくすると、萌ちゃんが帰って来た。上機嫌具合を見ると、どうやら『リサーチ』は成功したらしい。



 そんな上機嫌な萌ちゃんに、『鶴橋くんどうだった??』と、聞こうとした時、


「朱里ー! 鶴橋くんのLINE教えてもらっちゃった!」



 『リサーチ』を通り越して、連絡先を教えてもらっていた。








 そしてさも、当たり前のように、


「ハイ。朱里! 鶴橋くんのLINE!!」



『連絡しなよ??』と、私に小さいメモ紙を渡してきた。


 恐らくこのメモ紙に鶴橋くんのLINEのIDが書かれてあるんだろうけど、


「イヤイヤイヤ!!!」


連絡先を教えてもらったのは私じゃない、萌ちゃんだ。きっと、萌ちゃんだから『教えてくれた』に決まってる。


 受け取ることなんてできない。


 だって私、何もしてない………


 でもだからといって、鶴橋くんの連絡先なんて、自分じゃ当然聞き出せない。



 『受けとる事なんてできない』と思っていたにも関わらず、欲深い私は鶴橋くんの連絡先を受け取ろうとした。


 ――その時、


「は?? 鶴田の連絡先??」


メモ紙を受け取ったのは、私ではなく祐樹だった。



「萌ちゃんがわざわざ聞いてくれたの。返して」


「やだ。俺がLINEする」


「は!? 祐樹がLINEしてどーすんのさ!!」


「だって、朱里『仲良くなれ』って言ったじゃん」



 ……いや、言ったけどさ! 昨日拒否りまくってたじゃん! 今更『仲良くなれ』なんて普通、思わないよ!





「私、鶴橋くんに『好きな子がLINE教えてほしいって言ってるから教えて』って言っちゃったの。だから、和谷くんは………」


 ――と、萌ちゃんは申し訳なさそうに『連絡はやめてほしい』という事を遠回しに祐樹に伝えていた。


 ………鶴橋くんに『好きな子が連絡する』って伝えちゃってたのか。


 それなら私が連絡してしまったら『コイツが俺を好きな子か』ってバレちゃうって事なんだ。


 最初は友達から仲良くなりたいと思ってたのに。


 どうしよう、連絡する勇気なくなってきた………


「それでも俺が連絡する」


 モジモジしてる私とは違って、祐樹はメモ紙を見つつ、スマホを取り出した。


 ――えっ!? まさか、鶴橋くんに連絡するつもり!? 祐樹バカなの?


「今から連絡するって事はそういう意味になっちゃうんだよ!?」


 慌てて必死に止めに入る。






「分かってるよ。鶴田が思い込んでる『LOVE』を『LIKE』にしちゃえばいいじゃん。"好きの意味合いは色々あるだろ。『鶴田の人間性を好きになった』ってLINEすればいいじゃん」


 ……あ。なるほど。
 言われて納得してしまった。


 ………そっか。好きの意味合いを一括りにしなくて良いんだ。


 そう思うと、なんだか私も鶴橋くんにLINEできそうな気がしてきた。


「私も――」


 『鶴橋くんに連絡する』そう言いかけた瞬間、


「あっ、鶴田からLINEきた!」


「え!? 本当にLINEしたの?」


「LINEしたから返事きたんじゃん! 俺こいつと仲良くなるわ。つーか明日一緒に飯食うわ!」



 ………えぇえええ!! ウソでしょ!?



 もう祐樹と鶴橋くんは、ご飯を食べる約束までしてしまったらしい。


 昨日の今日でこの変わりよう。


 あれだけ”協力しない”の一点張りだったのに、何なの本当に………