「シロ」
振り返ると、目の前に成央くんの顔。
自分の顔がカッと赤くなるのがわかった。
「なん…っ」
「犬みたい」
透き通るような声が、私に浸透してくる。
声が、出なくなる。
「移動教室…いかないの」
「シロ、おいで」
そう言うと先に教室を出てしまった。
成央くんが歩き出したのは、
教室と違う方向だった。
授業をサボったことない私だったのに、
成央くんの声につられて私の足は
素直に付いていってしまった。
無言の空間。
すらっと背の高い成央くんの後ろ姿に、
見蕩れてしまう。
付いたのは使われていない空き教室。
転校してきたのにこんな場所知ってるなんて。
「な、成央くん」
「なんだい、シロ」
「どうして…」
「シロ、俺のこと物欲しそうに見てた」
一気に心臓が跳ね出すのが分かった。
静かな空間に響いてしまいそうな位
大きな心臓の音。
「あたり?」
私の顔を除くその瞳は、
真っ直ぐで直視出来なかった。