佐久間志絽 、中学2年生。
学校は不自由ないし、平凡な毎日を送っている。
元々友達は少ないほうだし、
一人の方が楽な性格だから
いまの生活に辛さとかは感じない。

あの日君に会うまでは。

授業中の先生の声、黒板に字を書く音、
外で煩く鳴く蝉の声。
チャイムが鳴って皆が一斉に動き出す。
いつもと変わらない光景。


「志絽、帰ろう。」


暑さに身をもっていかれそうな重い頭を上げると、幼馴染の谷優太がいる。


「優太、毎日飽きないね」

「迎えに来てるんだから、もう少し嬉しそうにしろよな」


そう言って笑いながら優太は
私の鞄を持ち上げた。
私は背伸びをしたあと、
席を立ち優太のあとを付いていく。
優太は沢山友達がいるのに、
いつも私を優先してくれる。



「優太、ありがとね」

「何がだよ」



気を遣わせないように惚けたふりをするから、だから私はたまに甘えてしまう。



「…あ!悪い、俺今日先生に呼ばれてたんだ…」


急に思い出したのか、
申し訳なさそうに言う優太。
私、いつから優太の自由を奪ってしまっていたんだろうか。



「優太、ひとりでも帰れるよ、大丈夫。」


微笑んで鞄を受け取ると、
優太は安心したように私の頭に手を置いて
職員室へ向かっていった。