「お先に失礼します」

「あ、美帆ちゃんお疲れさま」

定時を過ぎ、席を立つ。そして、こちらを向いて手をひらひらと振った隣の席の島田さんに小さく頭を下げ、私はオフィスを後にした。

髪をひとつにまとめていたヘアゴムを毛先まで移動させ、バッグにしまうと、私はいつものようにヒールの音を鳴らしながら廊下を歩き続けた。


「河合」


会社の出口までやってきた私が社員IDカードをセンサーにかざそうとしたそのとき、誰かが背後から私を呼び止めた。

IDカードを持つ手の動きを止めて振り返る。すると、そこには恐らく帰りであろう清水がいた。


「清水、お疲れ様。どうしたの?」

「見かけたから声かけただけだよ」

「ふうん、そっか」

見かけたから声をかけただけだと言って、私に続いて会社を出た清水。

お互いなにかを話すわけでもなく、私たちは、ただ隣に並んで歩き続けた。

何も考えずにいると、この沈黙が妙に居心地が悪くて、私は、確か清水とは家の方向が同じで、結構近くに住んでるんだったっけ。なんて考えては気を紛らわせる。すると。


「来週末、営業と企画と、総務受付で飲み会しようって島田さんが企画してるらしいよ」