一体、部長は何のことを言っていたんだ。意味深な言葉ばかりを残した理由は何なんだ、と足を止めて考える。

すると、私の目の前に立ち止まっている真樹がくすくすと声を漏らしながら笑い出した。


「美帆。昨日は、寝かせてあげられなくてごめんね?」

眉を上げ、柔らかく口角を上げて笑っている真樹の台詞は、まるで大人の会話みたいだ。

「寝かせてあげられなくて、って何よその台詞……って、あ」

突然、何を言ってくるんだ。と、真樹に不審な目を向けていた私は、言葉を発していた途中でハッとした。


「な、ぶ、部長!そういう意味じゃ……‼︎」

部長が去って行った方向に向かってそう言ったけれど、時既に遅し。もう既に部長の後ろ姿は見えない。

部長は、私と真樹が昨日、エッチをしたと思い込んでいるに違いない。そう思うと、私は今更恥ずかしくなって、両手で顔を覆った。


「何今更照れてんの」

「だって……」

「俺なんか〝もう一回しよって、何度も言う〟性欲の塊扱いされちゃったし、これから部長の目が痛いだろうなぁ」

「いや、それは本当ごめん」

両手を合わせ、真樹に謝罪をする。すると、彼はまた更にくすくすと笑いだした。


「まぁ、河合さんがそういう彼氏を希望なら、そうしてあげても良いけど」

「は、はあっ!?」

笑っていたかと思えば、突然、私の耳元でふざけた冗談を言う真樹。

つい、間に受けて大きなリアクションをとってしまった私に「なんてね」と言って笑うと、彼は先を歩き出した。