陽介から吉田くんは負けず嫌いで自分の興味本位で動いてしまうのが欠点だと聞いていた。
まさかそれの対象となるとは思っていなかった。
あの日の放課後を思い出した。
閉まっていた苦しさが込み上げてくる。
「ちょっと!」
朋ちゃんはいき過ぎな吉田くんの発言に怒ってくれてた。
でも吉田くんは今度は臆さなかった。
「なんで怒ってんの?
宮原だって毎日さんざん陽介に言ってたじゃん。
『 高身長男子』、『背の高い人』って。
そうだよな、宮原?」
痛いと思った。
ばちが当たったと思った。
陽介を身長でいじっていたばちが。
朋ちゃんがこっそり、
「答えなくていい」
と言ってくれていたが。
混乱していた私には聞こえなかった。
自分の気持ちを気づかれたくない!
ただそれだけを一心に、私は思わず、
「うん…
陽介を好きになんてなんないよ…」
そう答えていた。
その後のことはよく覚えていない。
吉田くんがそうだよなとかなんとか言ってこの場をやっと去ってたと思う。
クラスメイトたちは興味を失ったようで、個々の活動に戻っていった。
ここで否定なんてしなければせめて沈黙でいたならばこのあとに起こることを未然に防げたのか。
それはどうか分からない。
でも、どっちにしても既にしでかしたことは取り返しがつかない。
この時の私にはどうすることもできなかった。
風邪で熱を出し休んでいた陽介は学校を2日休んだけど、すっかり元気になったらしい。
陽介は恋愛対象になるわけないと言ってから1週間が経った。
あれからなんとなく陽介を避けてしまっている。
そんな時、放課後、廊下を歩いていると
「え?今日、山城ちゃんが高城くんに告白するの?!」
と知らない女の子の大きい声が聞こえた。
「しー声でかい!」
「あ、ごめん。
そーなんだ、告白するんだ」
「うん、らしいよ」
「そっか。
山城ちゃんだったら断らないでしょ」
「だよね。絶対くっつくね」
山城ちゃんってあの学年で1番可愛いって言われてる子?
うそ…
なんで?
あぁ朋ちゃんが言ってたっけ。
ソン会で陽介の株が上がったって。
山城ちゃんはふわふわしてて、
ちっちゃくて、
顔も可愛くて、
the女の子、
the男子から好かれる系女子だ。
山城ちゃんが陽介に告白か…
……勝ち目ないじゃん。
「千紗?どうしたの?」
急に横から話しかけられた。
話しかけられた方を見ると、朋ちゃんだった。
「朋ちゃん……っ…」
朋ちゃんの顔を見た瞬間涙目になってしまった。
「ちょっと移動しよ」
朋ちゃんは私の力なく下がった手を掴み、引っ張って歩き出した。
人目のない所までくると、
「なに?どうしたの?」
と聞いてきた。
山城ちゃんが陽介に告白をしようとしてるということを朋ちゃんに伝えた。
目がとても熱く感じた。
一週間前のあの出来事があってから少しナイーブだった私にとって、
山城ちゃんが陽介に告白するという噂はたとえ噂であったとしても私に大打撃を与えるには十分だった。
「あぁあの噂、本当だったんだね」
朋ちゃんは既に聞いていた噂だったらしい。
「え?知ってたの?」
「うん。
今日とは知らなかったけどね。
ソン会が終わった後、陽介くんに告白してみるしてみないって女子が何人か聞いてたから、どれが本気かわかんなかったんだよね」
陽介に告白するしないって噂たくさんあったんだ。
だから、朋ちゃんはぼさっとしてると取り返しがつかなくなるって言ったんだね。