「ずっと……この部屋から、動けなくなっていたあたしを…外に出れるようにしてくれたのは…千明ちゃんだよ」

彼女は立ち上がり、俺の首に両手を回すと引き寄せ、耳元で囁いた。

「今は…誰よりも、大好きだよ。これだけは、ほんと…………だよ」

彼女は、近付けた顔を離し、

「でも、まだ…あの人を、嫌いには、なってないの」

彼女は、俺から離れ、

「まだ…忘れてもいないの……」

彼女は俯いた後、すぐに顔を上げ、微笑んだ。


「ずるいよね」


彼女の何とも言えない…悲しい表情に、俺は叫んだ。

「お、俺も!ご飯つくるし、俺も!お前の為に!生きるから…」



「だめだよ…」

彼女は笑い、

「それじゃ…千明ちゃんじゃなくなるよ」





その言葉に、お前は彼女をに近寄り、思い切り抱き締めた。

彼女は、目をつぶり、俺の背中を抱き、

「………あたし、明日からアルバイトするね。知り合いの居酒屋が、人手が足りないって…」




その日。 



俺は初めて…彼女を抱けなかった。

どんなに抱き締めても、俺はたたなかったのだ。