「死んだ?」



「言ってなかったけ?」

驚き、思わず彼女の顔を見た俺を、意外そうに見る彼女がいた。



彼女は頭をかくと、布団の上に座り、

「半年前よ」

胡坐をかくと、頬杖をし、

ジェリー・マリガンのレコードを見つめながら、

「病気だったの。だから、死ぬ…数ヶ月前は、この部屋にずっといてね。働けないから…ここで、あたしの料理をつくり、あたしの帰りを待ち…あたしの為に、洗濯しを……」

彼女の瞳に、涙が溢れだす。

「そして…あたしの名前を呼びながら、死んでいったわ。奥さんがいたのにね」

彼女は笑った。

「別居中か何かでね。だから、あたしが最後を看取ったし、あたしが病院代も、葬式代も出したけど…。あの人は、結局……お骨になってから、奥さんとこに戻った…」

彼女は笑い続け、

「向こうにとっちゃ…あたしなんて、ただの泥棒猫。あたしに残ったのは、写真と……レコード一枚。それも、擦り切れて…」

彼女は、ターンテーブルの上から、レコードを手に取り、


「今は、別のもの…」

俺も、レコードを見た。


「同じ音を奏でる…別のもの」

自嘲気味に笑う彼女に、俺はかける言葉を、失った。


目の前が、真っ黒になり……彼女を見ていたが、見れていなかった。

意識はあり、考えているんだろが…頭が働いていない。


「千明ちゃん…」

女のような俺の名前を呼んだ彼女の声に、俺は現実に戻った。

「大好きだよ」



もう彼女の目に、涙はなく……まっすぐに、俺を見ていた。