「ねえ〜ちいちゃん。×××のベスト、中古で入った」

教室の片隅で、佇んでいると、同級生の歩美が話し掛けてきた。

俺はそっぽを向きながら、こたえた。

「そんな新しいやつが、うちみたいなかび臭い店に、入荷するかよ」

俺は、馴れ馴れしい歩美が、苦手だった。 

「そうなんだ…」

いきなり、シュンとなる歩美に、少し戸惑ったけど、俺は何も言わなかった。


歩美はため息をつき、

「ああ〜折角、安く買えると思ったのに〜」



俺は、次の授業を告げるチャイムを聞きながら、

「世の中…そんなに甘くないってこと」 

歩美に言うと、自分のいつもの席に戻っていく。


ふと…いつもと変わらない自分の机に目がいった。

いつもと変わらない…いつもと同じ…場所にある机。


彼女を思い出した。

いつも…同じ部屋にいる彼女。



だから、俺は言った。

薄暗い部屋で、蹲る彼女に外へ出ようと。

「どこか、買い物でもいこうよ」

俺の言葉に、彼女はターンテーブルの上で回るレコードを見つめながら、首を横に振った。

「……ほしいもので、買えるものは、手に入ったし……」


そう言うと、彼女は俺の方を向いて、にっと歯を見せ、思い切りの笑顔を見せた後、少し俯き、こう言った。



「抱いてよ…」