「これ…ください」


アルバイトしていた中古レコード屋に、数日前から、1人の女が通っていた。


うちの店は、店長の性格もあり…レコードは、ジャンル別など整理されているわけでなく、何かほしいものがあっても、見つけることができなかった。

店長いわく、

レコードなんて買う奴がいなくなったから、どうでもいいと…。

店内の半分以上を占領しているレコードより、入り口近くに、丁寧に陳列されているCDが、メインだったからだ。


女は何日も通い、一枚一枚、レコードを探していた。

数日後、見つけて…レジにいた俺の前に持ってきたのが、

ジェリー・マリガンのナイト・ライツだった。





「CDであるけど…レコードがいいの」

部屋で、抱き疲れて仰向けになっている俺の横で、膝をかかえながら、たばこに火をつけた彼女は、そう言った。

吐き出した煙を見つめながら、薄い布団の上で、彼女は言った。

「前に持ってたのは…もう擦り切れて、聞けなくなったから…」


俺は質問ついでに、もう一つにきいた。

どうして…うちの店で探していたのかと。

他にレコード屋はあるし、別にレアなものでもないし…。

彼女は笑いながら、

「このアルバムを置いてった人が、あそこで買ったのよ。だから…」

彼女は苦笑した。

中古なんて、そこで買ったから…またあるなんてものじゃない。

俺が驚きながら、そう言うと……、

彼女はまた苦笑した。


「なければ…なくてよかったの…。あっても、なくても」

そう言うと、彼女は煙草を灰皿に置き、

隣で寝ている俺の唇に、倒れ込みながら、キスをした。


そして、俺を逆に抱いた。