「馬鹿馬鹿しいかもしれないですけど、当時の私にとってその言葉は救いの言葉でもありました。だって私のお姉ちゃんは何でも出来るんですよ。綺麗だし器量も良いし、ピアノをすれば賞だって取っちゃうし、なのに私は……って、そんな風に思ってた私の心がなんかすごく軽くなったんです」


そう、だからーー。


「そんな風に言ってくれた店員さんは、その後全然お店で見かけなかったんですよね」


私は笑った。笑ってないとなぜか涙が出そうだった。なんでかな、ずっと秘密にしてたから、口に出すと感情が高ぶってしまうのかもしれない。


「ずっと、会いたかったんです。あの後もずっと」


私が必死に笑って、必死に言葉を紡いでるのに、颯ちゃんはじっと私を見つめたまま何も言わない。黙って聞き役に徹してる。

ここまできたら、全て吐き出してしまおう。ずーっと秘密にしてたこと、全部、ぜーんぶ打ち明けてしまおう。


「だってその人は、私にとってのヒーローだったんですから」


それは大げさな言い方なんかじゃない。颯ちゃんは私の憧れのヒーローでした。

ヒーローにはふさわしいヒロインがいて、たとえ私はそのヒロインになれなくても。それでもいいって、颯ちゃんはそんな風に初めて思えた人でした。


「また会えたらいいな、なんて思ってる時は会えないのに、再会はある日突然やって来ました」


それは画面越しに、だったけど。


「大好きなお姉ちゃんに彼氏が出来たっていうじゃないですか。どこの馬の骨か、しっかり見極めようと思って写真を見せてもらったんです。そしたら……」

「……もういい」


ずっとだんまりを決め込んでいた颯ちゃんだったのに、突然口を開いた。

もう少しでストーリーが完結するというのに、最後まで話させてくれないなんて、やっぱり颯ちゃんは意地悪だなぁ。