その表情を見た瞬間、言葉が引っ込んでしまいそうだったけど、私はさらに言った。


「私はお姉ちゃんも認めるくらい、お姉ちゃんの彼氏にはかなりうるさいんです。だって私の大好きなお姉ちゃんで、私の人生の憧れの人の隣に立つんですから、そんじょそこらの男じゃダメなんです」

「……なるほどな。なんで初めから俺はお前に嫌われてたのか、やっと理由が分かったわ」


颯ちゃんは自嘲気味に笑った。そしてその表情は悲しみの色がさっきよりも色濃くなっていた。


「俺じゃ、不釣り合いだったって言いたいんだろ」


違う、そうじゃない。そうじゃないんです。


「いいえ……先輩は、唯一私のお姉ちゃんと釣り合う人でした。そして、私のヒーローでもありました」


私は一生、ヒロインにはなれない。颯ちゃんのヒロインにはなれない。それなら道化にでもなって、私が颯ちゃんを笑顔にできたらいいなって思ってた。


「私はずっと、颯ちゃんって呼んでみたかったんです」


私はお姉ちゃんの笑顔も、颯ちゃんの笑顔も見ていたい。


「お姉ちゃんがそう呼んでたから、ずっとこの呼び方に憧れてました」


私がお姉ちゃんと颯ちゃんの仲をとり持つ事はできない。だってそれは当人同士の話だから。私はただの部外者でしかないし、全て決めたのは私のお姉ちゃんで、それを受け入れたのも颯ちゃんだ。


「私の名前、かすみなんて名前、ずっと嫌いでした。でも、小学生の頃、友達の家に遊びに行った帰りに何気なく見つけたお花屋さんで、こう言われたんです。かすみ草って地味だけど、ブーケを作る時にそれが無かったら上手くまとまらないんだ、って」


そう、あれが私と颯ちゃんの出会いだった。