校舎の中を駆け抜けて、颯ちゃんを窓越しに見つけた私は、そのまま表へと抜けた。そしたら、颯ちゃんは私を見た途端、歩んでいた方向を変えた。


「まっ、待って。待って下さいよ……!」


不愉快オーラをバンバン放ち、颯ちゃんは顔だけこちらに向けて私を睨みつけた。

こ、怖い……。

さっき、颯ちゃんと話してた一年の元カノ。彼女はこんな視線をあの至近距離で浴びてたんだ……そう思うと、彼女が心から凄いと思えた。


「なんだよ」

「あっ、あの、あのですね……」


うまく口が回らない。唇が、舌が、上手く動かない。そしたら、辛抱切らしたのか颯ちゃんってば、再び私から顔をそらして歩き出した。

ちょっ、切り捨てるの早いですってば。


「そ、じゃない、先輩!」


今度は私の呼びかけにも足を止める気配はない。それでも私は颯ちゃんの背中に向けて言葉を放った。


「お姉ちゃんは、ちゃんと先輩の事が好きでした!」


お姉ちゃんという言葉に反応したのか、先輩の足はピタリとと止まった。だけど、まだ振り返る様子はなさそう。

それなら、それでいい。話を聞いてくれればそれでいい。


「そして……お姉ちゃんは、きっと今でも先輩の事が好きだと思います」


私はごくりと生唾を飲み、勇気を奮い立たせてもう一度口を開いた。


「今の先輩は、すっごくダサいです。かっこ悪いです。私の大好きなお姉ちゃんの彼氏だったと認めたくないくらいみっともないです」

「……んだよ、それ」


その声には怒りしかなかった。颯ちゃんがゆっくりと振り返った時、私は阿修羅の顔をした颯ちゃんを想像して震えてしまった。

けど、振り返った颯ちゃんは怒ってるのに、とても悲しそうだった。