「あの子は嘘をついていたんですよ? 先輩を騙してたんですよ? そんな彼女を許せるんですか?」

「勘違いするなよ。許すか許さないかも俺が決める。アイツにキレていいのも俺だけだ。部外者のお前じゃない」


そう言い捨てて、颯ちゃんは彼女に背を向けて歩き出した。

後ろ姿ですら颯ちゃんの怒りが見てとれるからなのか、彼女は何も言わない。引き止めようとも、さらなる弁解の言葉を投げかけようともしない。


思わず盗み聞きしてしまったけど、私もその場を去ろうと思った時、彼女は再び口を開いた。


「ずっと、好きでした。あの子のお姉さん、風花さんと別れたのを知ってからずっと、先輩の隣に並びたいって思ってました。だからーー」


校舎の角を曲がろうとしていた颯ちゃんは、歩む足をピタリと止めて、チラリと顔だけ振り返って、こう言った。


「今更そんなもん、信じられると思うか?」


信じられるとーー。


その言葉が私の耳の中で反芻した。そんな私の状況なんて知る由もない颯ちゃんは、さらに話を続けた。


「お前は俺のなにを知ってるって言うんだよ」

「先輩……」

「どうせ顔だろ? 付き合ったら友達に自慢できるとか、要はブランド品と同じだろ」

「ちっ、違います!」


彼女は懸命に声を上げた。だけど、颯ちゃんは変わらずの表情で声を荒げた。


「どこが違うか言ってみろよ! 俺がこの1年付き合ってきた奴らはみんな同じだった。お前も含めてみんな一緒だった」


颯ちゃんの言葉に私の胸はズキンと痛む。

日替わりランチと同じように彼女をコロコロと変える颯ちゃん。

ずっと、そんな風に思ってたの? そんな風に思いながらも、あんなことを続けてたっていうの?


だとしたら、颯ちゃんはバカだ。大バカ者だ。


私は駆け出した。校舎の中を通り抜けて、颯ちゃんの行く先を先回りする為に。