「俺、この花壇が映るようにカメラ隠し撮ってたんだよな」


そう言って、颯ちゃんはポケットからケータイよりも小さくて、簡易マイクみたいな機械を取り出した。


「これに写ってたんだよ、お前がこの花壇に手紙置きに来るところがな」


颯ちゃんはそう言った後、身の毛も凍るような冷たい視線を元カノへと向けた。

私ですらそう感じたのだから、そばにいて直接その視線を受けてる彼女の体は凍りついてしまったんじゃないかと思えるほど、微動だにしない。


「犯人は犯行現場に戻って来るっていうのは本当だったんだな」


颯ちゃんは笑ってる。あざ笑うように笑ってる。地獄の閻魔様でもこんなに残酷な表情で笑ったりしないんじゃないだろうか……そう思えるほどに、残忍な笑顔だった。


「……それは」

「それは、何かの間違いだって?」


彼女の言葉に被せるようにして、颯ちゃんは言葉を吐き捨て、その吐き捨てられた言葉に彼女の体はブルルと小さく震えたのが私の位置からでも見てとれた。


「ふざけんな」


マシンガンのように立て続けに放たれる言葉に、彼女は立ってるのもやっとという様子。

そんな状況でも、彼女は懸命に口を開いて言い返した。


「わっ、私……謝ったりしませんから」

「別に謝んなくてもいいけど、またアイツに手出したら次はタダじゃおかねーからな」



“ーー俺が守ってやるから”



思わず、そう言ってくれた時の颯ちゃんを思い出した。

颯ちゃんにそう言われたのは最近の話なのに、なんだかもう遠い昔の話のように思えて、私の胸は小さく疼いた。


「なんであの子を庇うんですか? あの子のお姉さんは先輩の元カノですよね? 先輩は覚えてないかもしれないですけど、私も先輩達と同じ塾に通ってたので知ってるんですから! だったら、あの子の方がタチが悪いじゃないですか。知ってて近づいて、先輩を誑(たぶら)かそうとしてた!」


颯ちゃんの顔色が再び変わる。

さっきとは違う、怒りの表情がそこには浮き出ていた。