「かすみ!」


登校してきたばかりの私の席に駆け寄って来たのは、りょうちんだった。


「昨日電話してもメッセージ送っても音沙汰ないし、どうしてた? 風邪?」

「ごめん、風邪で頭痛かったからケータイの電源落としたままだった」


私はまだケータイの電源は切ったままだ。電源を入れたところで悪い事はあっても良い事があるとは到底思えなかったから、あえてそのままにしていた。


「いいけどさ……かすみ、青井先輩となんかあった? 先輩、昨日は別の子隣に連れてたけど」

「えっ?」


カバンの中から取り出した、今朝購買で買ってきた真新しい教科書が、私の手からするりと落ちた。


「二人で食堂近くのベンチ座って、お昼ご飯一緒に食べてたよ。なんか、なんていうか、周りに当てつけてるみたいにさ」


耳を疑った。

いや、分かってた。お昼時、颯ちゃんの隣に座るのはもう、私じゃないかもしれないって。

でも、早くない? それじゃ本当に、私は用済みって事なのーー?



「あー、良かった!」



クラスの後方から一際大きな声でそう言ったのは、クラスメイトの山下さんだった。


「斉藤さんに言われた通り空手なんて習わなくて本当良かったぁー。無駄にガタイ良くなって女子力下がるとこだった」

「あんたは元々女子力ないから安心してなよ」


嫌みたらしくそう言う山下さんに、すかさず応戦するりょうちん。普段は私をいじる事に長けてるけど、味方に回ると心強い。


「はぁー! 紺野さんがそれ言う⁈ 私紺野さんよりマシだと思うけど!」

「じゃあ自己評価高すぎんじゃん? 見直した方がいいよ」

「むっかつくー!」


イライラして地団駄踏む山下さんをなだめる為、教室から連れ出す小倉さん。

山下さんとのやり取りはりょうちんに任せてる間も、私の頭の中は颯ちゃんの事でいっぱいだった。