なんとかしてせめて後列に回ろうと姿勢を低くしてまるで忍者のようにこそこそしていると、突然周りがわっとわいて。
「ほらほらほらほら彩羽!!!雨宮綾!!!!」
今度はがっちりと腕を掴まれ、逃げられそうもない。
数十メートル先には、同居人の姿。
ただいつもと違うのは、Tシャツにジーパンというラフな格好じゃないところ。
「学園モノとは聞いてたけどスーツ!!!!破壊力5割増しっ」
アイドルのコンサートでも来たかのようにきゃあきゃあと騒ぎまくる美月と、声も出ない私。
だって、思わず息を飲んでしまうくらいかっこよくて。
「もう本当にやばいんだど…って、彩羽?」
黒のスーツに、ピカピカの革靴。
9月下旬とはいえまだ暑いのか、スーツの袖をまくったことでみえる程よく筋肉のついた腕。
いつもみたいにただ引っつめただけじゃない髪は、後ろでさり気なくお団子風にされていて。
……美人は三日で飽きる、なんて嘘だ。
少しだけ残された横髪が風に揺れて、こっちにまでいい匂いがしてきそうなそんな気さえする。
かっこいい。綺麗。色っぽい。そんな言葉じゃ足りない。
思わず息をするのを忘れてしまうような、そんな存在感。
家で不機嫌そうに腕組みをしている姿ばかり見ていたから忘れかけていたけれど、そこにいたのは紛れもなく"雨宮綾"で。
ぼんやりと雨宮さんに見とれる私を心配して顔を覗き込んでくる美月の声も聞こえないくらい、一瞬にして虜になってしまった。