「おはよう彩羽…って何その荷物」
その後、仕方なく必要最低限のものをキャリーバッグに詰め込み、家を出た私。
学校につくと、友達の今野美月(こんの みつき)に声をかけられ、朝の事件を話した。
「なーんだ、そういうこと。私はてっきり家出でもしたのかと…」
「家出ならどんなによかったか…」
タダでさえ人見知りな私。
もちろん友達だって入学式の時に話しかけてくれた美月くらいで、クラスでも目立たない存在だ。
周りのみんなは校則がゆるいのをいいことに髪を染めたり制服を着崩したりしている中、私は地毛の黒髪を貫き、制服だって生徒手帳に載せてもらえるんじゃないかってくらいきっちり着こなしている。
平和に、平凡に、そう思って今まで過ごしてきたのにまさかこんな形でぶち壊しになるなんて思ってもみなかったよ。
「そっかぁ。じゃあしばらく彩羽の家でDVD鑑賞会出来なくなるんだねぇ」
「………そこ?」
「だってせっかくの雨宮綾鑑賞会ができなくなるんだよ?大問題じゃん」
がっくりと肩を落とす美月は、今話題の人気俳優雨宮綾(あめみや りょう)の大ファンで。
録り溜めたドラマやバラエティ番組、舞台DVDを私に観せてファンに引きずり込もうとしているのだ。