グイッと強めに腕を掴まれて、無理矢理振り返らされた私。
「ちょっと、柏木く…!」
驚いて見上げたら、唇に触れた何か。
柔らかくて暖かいそれは、生まれて初めての感触で。
瞬きすら忘れて目を見開いたままの私を見た柏木くんは、妖しげに笑った。
「あぁ、ごめんね。もしかして初めてだった?」
「っ、なに…!!」
「はは、ちゅーぐらいで真っ赤になってやっぱりかーわい」
なんで、どうして、こんなこと…!
反射的に上気した頬と熱を持つ唇を抑えて、キッと睨みつけたのに。
「これからよろしくね?彩羽ちゃん」
爽やかに笑う。まるで、何事も無かったみたいに。
いやだ、嫌いだ、この人。
「し、失礼します…!!」
「わっと」
腹が立って、もう訳が分からなくて、とにかくこの場から逃げてしまいたくて、入館証を柏木くんの胸に押し付けて一人走り出す。