「あのっ」



「あ?」



「きょ、今日は、わざわざ見に来てくださってありがとうございます」





「なんだ急に改まって。別に俺が見たくて来たんだ。礼を言われるようなことはしてない」




俺が見にきたくて、なんて。



たこ焼きを頬張りながら、さらりと嬉しいことを言ってくれる雨宮さんに胸が高鳴る。





自然と緩む頬を隠すために俯いていると、上からはぁああ、とうんざりしたようなため息が落ちてきて。




「悪い、戻る」




「え」




「睦月から連絡が入った」




がしがしと頭をかきながら差し出されたスマホの画面には"睦月京香"と表示されている。





睦月さんとはあれ以来会っていないけれど、雨宮さんにこうして度々かかってくる電話のせいでその存在を忘れることはなかった。




スラリと伸びる長い手足に、雪のように白い肌。




綺麗でもあり、可愛くもある女子なら誰しもが憧れる容姿。





雨宮さんを好きだと言った、鈴を転がした時のように澄んだ声。





忘れられるわけないその圧倒的な存在感は、私の気持ちにぽつぽつと黒い影を落としているのは確かで。





雨宮さんを好きだと気付いてしまった今、その影は更に色濃く染み込んでいく。





睦月さんと電話をしながら遠ざかっていく雨宮さんの背中を見つめながら、唇を噛む。





あぁ、嫌だなぁ。





振り返ってほしい、なんて。







言ったら、笑われちゃうよね。