「なんだ、その顔は」
私に千円札を差し出しているのは、紛れもなく雨宮さんで。
サングラスも装備されていて、変装は完璧だけど。
「ぎゃ、逆に目立ってます…!」
「あ?」
スタイル抜群の長身の成人男性が高校の文化祭に一人でキャップにサングラスにマスクだなんてちょっと異様な光景で。
「お前がバレたら面倒だと言ったんだろう、アホ」
「わ、」
ため息混じりにそう言った雨宮さんはキャップを外して、そのまま私の頭にかぶせる。
「…お仕事は、いいんですか?」
「あぁ。空き時間が長く取れたからな」
私からたこ焼きを受け取って、マスクをずらしてひとつ口に放り込む姿さえ、絵になる。
「それよりなんだ最後のは。セリフ、飛んだのか」
「え!?あ、あれはちょっとアクシデント?的な?やつです!!」
「へぇ。まぁでも、よかったんじゃないか。あんな気の利いたアドリブができるとは関心した」
わ、わ。褒められた。
「やけにあそこだけ感情がこもってたように思えたが、あいつに惚れたのか」
「ち、ちがいますっ!」
圭吾先輩じゃない。
私は雨宮さんに、惚れてしまったんです。
なんて言えるはずもなく。