基本的に私の人生は村人Cだったし、道端に生えてる木だった。
立ってるだけ。何も喋らなくていい。演技力も求められない。
脇役一筋十数年。村人最上ランクAにすらなれない、日陰者。
そんな私にまさか、こんな日が来ようとは。
海外出張中のお母さん、見てますか?
あなたの娘は今、人生初のスポットライトを浴びようとしています。
『プログラム15、演劇部による"現代版シンデレラ"まもなく開演です』
放送部の誰かによるアナウンスに、手が震える。
体が氷みたいに冷えていくのに、じんわりと汗ばんで気持ち悪い。
「…彩羽ちゃん?大丈夫?」
私の異変に気がついた圭吾先輩が振り返って、更に胸が苦しくなる。
やばい。
ちょっとこれは、本当に逃げたい、かも。
本番って、こんなに緊張するんだ。
人前に立つって、こんなに足が竦むんだ。
「圭吾先輩、わたし…っ」
やっぱり、と口にしそうになったけれど。
「…彩羽ちゃん?」
「…いえ、やっぱり何でもないです」