「万が一セリフ飛んだらアドリブよろしく」
「そんなスキル持ち合わせていないので、とにかく飛ばないように頑張ります…」
「ちょっと、肩に力入りすぎ」
「うわぁ!」
さっと背後に回った圭吾先輩は、そのままぐりぐりと私の肩を揉みほぐす。
「その緊張俺にまでうつるからやめて」
「い、痛い!!痛いです!!痛いです圭吾先輩っ!!」
きいてるんだか下手なんだかよく分からないけど、とにかく痛くて悲鳴を上げる私。
「よし、ほぐれた?」
「………色々と」
「よし。じゃあ行こうか、"サチ"」
「っ、」
不意に呼ばれた役名に心臓がはねる。
あぁ、本当に今日が本番なんだ。
押し切られるような形で参加したけど、それも今日で終わり。
ほっとするような、でもどこか寂しいような変な気持ち。
衣装に着替えて先輩方にお化粧をしてもらった私は、舞台袖で深呼吸。
まだ表に出てないのに客席がざわついているのが分かるから、ほぼ満席だろう。
……本当に私、大丈夫かなぁ?
セリフ飛ぶのももちろんだけど、噛んだりしないかな?
転んだりしない?
立ち位置間違えたり、タイミングが合わなかったら?
…こわい、な。