「…おい」
「は、はい」
「この間のは、何がいけなかった」
私から切り出そうと思っていたのに、結局雨宮さんに言われてしまった。
「正直、なんで怒らせたか分からない。そんなに俺が嫌いだったなら申し訳ないんだが」
「ち、違います!!」
嫌いだなんて、そんな。
むしろその逆だから、腹が立ったのに。
その嘘が本当だったら良かったのに、と肩を落としたのに。
「す、好きだなんて大事な言葉、面白半分で使って欲しくなくて」
「…へぇ」
「私、そういうのよく分からないですけど、大事にしなきゃいけない言葉だと思うんです。だから、あの、そんな言葉でからかわれたのが心外だったと言いますか、慣れていないので、本当に」
…取り返しがつかなくなってからでは、遅いので。
「不覚にも、ときめいてしまいますので…!」
「不覚にも、とはなんだ。俺を誰だと思っている」
まるで当たり前だと言わんばかりの口振り。
真顔でそんなことを言えてしまうのが何だか雨宮さんらしくて。
「ふふ」
「…何がおかしい」
「おかしいと言うか、ブレないなぁと思って」
むっと眉間によるしわ。
最初こそ怖いなと思っていたこの表情すら、今となっては見慣れてしまって。