"好きだ、彩羽"
「っ、」
未だに耳に残る雨宮さんの声。
思い出すだけで心臓が跳ねる。
伝わる体温、低くて色っぽい吐息混じりの声。
後ろからするりと回された腕、何のためらいもなく呼ぶ、名前。
そして、嘘の告白。
一瞬耳を疑って、本気にしそうになった自分がとても恥ずかしくて。
離れたあと、顔色一つ変えずけろっとしている雨宮さんに腹が立った。
だってこんなからかい方、悪趣味すぎるよ。
「さーいはちゃんっ」
「わっ」
練習後、台本を見ながら歩く私の背中を圭吾先輩が叩く。
「歩きスマホならぬ歩き台本とは熱心だね。でも、危ないからダーメ」
私の手から台本を抜き取ると、そのままぺしんと頭に降り注ぐ愛のムチ。全然痛くない。
「本番近いけど、どう?自信の程は」
「緊張するとセリフが飛んじゃいそうで、それが一番恐ろしいです…」
「はは!まぁそんときはアドリブで乗り切るしかないね」
「そんな機転ききますかね…」
「大丈夫大丈夫!何とかなるって!」