ため息が、出る。
厄介なものを預かってしまったと、頭を抱える。
どうして?
そんなこと、きっとこの生活が終わる頃には確信に変わっているだろう。
放っておけないのは、大切に思うのは。
気を引きたいと、触れたくなるのは。
なんて馬鹿らしくて、不毛な感情か。
それはきっと俺が一番よく分かっていて、一番、腹をくくっていたこと。
だから、そのまま。
「……おやすみ」
小娘の顔に落ちる髪を指先ですくい、部屋を出る。
ダイニングテーブルにはラップがかけられた夕飯。
「うまい」
米をよそい、冷めてもなおそう感じされる品々に箸をつける、深夜2時過ぎ。
炭酸の抜けかけたビールが喉を通る10月。
少しずつ自分の中で起きる変化に、見ない振りをした。
まるでカレーを煮込む鍋のように、蓋をした。
火をかけたまま放っておけば吹きこぼれると、知っていながら。
焦げ付き、取り返しがつかなくなると気付いていながら。
"俳優を、やめて"
もうあの時みたいな後悔はしたくないと、思ったんだ。