深夜、こうして静かな家に帰るとふと気付く。
あぁ、俺はこいつの"おかえりなさい"が好きなのだと。
リビングから漏れだして玄関まで漂ってくる夕食のにおいに腹が鳴って。
扉からひょっこりと顔を出した笑顔が、おかえりなさいと、まるで俺を待っていたみたいに綻ぶ。
温まった風呂に、すぐに箸を付けられるように準備されたテーブル。
今日のメニューは、と聞いてもいないのに説明する弾んだ声に聞き耳を立てるこの日々は、飽きれるくらいに居心地が良い。
最初こそ鬱陶しいと思っていたこいつのお節介が、今は当たり前になって。
こうしてそれにあり付けないと、体が冷えるような感覚になる。
もちろん本当に寒いわけではない。
ただ少し、その当たり前を期待して扉を開けるから。
そりゃそうか、と肩を落とすだけの話。
「……はぁ」
1ヶ月という期間は、距離を縮めるにしては充分すぎる。
女子高生なんてミーハーで流されやすい生き物は、端から受け付けないはずだった。
いや、現にそうだった。
追い返して、もう二度と会わないように仕向けたはずだったのに。
こいつがやけに素直に出ていくから、気に食わなかった。
帰るところがないと目を伏せる小娘の手を探して、探して。
結局連れ帰る、なんて我ながら馬鹿らしい。