あの半端な告白から、私は西山先生と距離を置くようになった。自爆というより他にない。塾に通うようになったので、数学のわからない問題を教えてくれる人もできた。教室で目が合っても先に逸らしてしまう。先生からもすっかり声を掛けてこなくなった。

私の恋は終わりを告げ始めている。どこかで区切りをつけようと思った。
しかし、区切りのつけ所が分からなくて、気づけばもう卒業の日を迎えていた。


「卒業したらみんなばらばらの道を歩むことになります。だけど、今このクラスだったという事実は、このメンバーで過ごした日々は変わりません。このクラス、このメンバーだったことに誇りを持って、新たな一歩を踏み出してほしいと思います。改めて、みんな卒業おめでとう!」
目に涙を浮かべながら、西山先生が最後の言葉を言った。クラスの女子の多くが泣いている。私もその一人だ。

ホームルームが終わり、解散と言われたが、みんな教室に残って、写真を撮ったり、泣きながら話をしたりしていた。先生はいろんな人に写真に入ってくれと頼まれて忙しそうだ。私も友達と写真を撮ったりしていて暇がなかった。

解散になってから一時間後、やっと教室から殆どの生徒が出ていった。いつの間にか、先生もいなくなっている。私は教室を出て、三階へ向かった。

コンコンとドアを叩くと、返事があった。もちろん、西山先生の声だ。私は思い切りドアを開いた。ガラッと大きな音がする。
「先生、ちょっといいですか?」
顔を上げた先生の目は少し濡れていた。
「あ……」
少し驚いたような表情をする。当然だ。最近ほとんど話していなかったのだから。だが、先生はすぐに笑顔になった。
「どうしたの?」
優しい声だった。私は準備室に入り、先生の前に立つ。

「最後の日なので、正解でも不正解でもない三角の恋に終止符を打とうと思ってきました」
目をそらさずに、そう告げた。前に言ったことを先生も覚えていたようで、少し気まずそうな顔をされる。しかし、私は気付かないふりをして続けた。

「私は先生のことが好きです」
声が震える。せっかく来たのに、逃げ出してしまいたくなった。西山先生は眼鏡を二度押し上げる。

十秒ほどの沈黙の後、先生は言った。
「ごめん。僕は東野さんの気持ちに答えることが出来ない」
先生の苦しそうな顔に胸が痛い。
「いいんです。分かってて好きになっちゃったのは私ですから」
私は笑顔を浮かべる。
「先生、私は先生みたいになりたいです。先生みたいな生徒のために動ける教師に」
そう言ってドアの前へ歩くと、また口を開いた。
「先生と出会えて、恋が出来て良かったです。今までありがとうございました」
そして、頭を下げると部屋を出た。やっと終われたと思った。


「東野さん!」
後ろから西山先生が呼ぶ。私はゆっくり振り返った。
「卒業おめでとう」
先生は笑顔だった。困らせたはずなのに、笑ってくれた。
「はい。ちょっと早いけど先生も結婚おめでとうございます」
最後のは自然と出た言葉だった。私は涙が出かかっていた目を拭って、笑った。






正解でも不正解でもない恋。
半端で未完成の恋。
でも、この恋は今までで一番いい恋だったと私は思う。