今週は、生徒対先生の二者面談がある。
火曜の一番最後は私。先生とゆっくり話が出来ると思ったため、最後を希望したのだ。
「東野さんは、行きたい大学がしっかり決まってるし、特に問題はなさそうだね。模試の結果も順調に良くなってるからひとまず安心かな」
私は先生の目を見て頷いた。先生のおかげか、伸び悩んでいた数学の成績も良くなってきており、第一志望の大学に合格できる可能性も上がっている。
「先生のおかげです」
にこっと笑って言うと、先生の顔には嬉しそうな表情が浮かんだ。
「東野さんが頑張ってるから良くなったんだよ。でも、そう言ってもらえると教師としては凄く嬉しいよ」
私は先生に嬉しいと言ってもらえると嬉しい、と言ったら堂々巡りになってしまうだろう。だから、その言葉は胸の中にしまっておく。
「時間結構余っちゃったね。なんか相談とかある?」
腕時計を確認して先生が言った。面談開始からまだ十分しか経っていない。
相談というより先生に伝えたいことならある。
好きです。
直球なその四文字。だが、伝えたらきっと先生は困ってしまう。先生を困らせてしまうくらいなら気持ちを伝えたくない。
伝えたいけど、伝えたくない。最高に矛盾している気がした。
せっかくだから何か話そうと考えた結果、ある質問をしてみる気になった。物凄く意地が悪い質問だ。
「先生、質問いいですか?」
先生は、当たり前のように頷く。
「一人の女生徒が、ある男性教員を好きになってしまいました。ですが、その男性教員には恋人がいます。絶対に叶わない恋です。この恋は正解ですか? それとも、不正解ですか?」
先生を見ると、呆気に取られていた。まさかこんな質問をされるとは思わなかっただろう。私は女生徒のことも男性教員のことも詳しくは言っていない。だが、先生は気づいたはずだ。それが今の私の状況にそっくりだと。
しばらくの沈黙を挟んで、先生は口を開いた。
「……凄い質問だね。どう答えるべきなんだろう」
戸惑いつつ、真剣に考えてくれているみたいだ。
「んー、僕的にはどっちでもないと思うな。というか間をとって三角ぐらい。正解で丸にするのはまずいけど、不正解でばつにするのはもったいない。叶わなくたって恋から学ぶことはきっといくらでもあるはずなんだ」
そう言って、先生は眼鏡を人差し指で押し上げた。まっすぐな目をしている。私は改めて惚れ直した。何事にも真面目に取り組んでいる姿とか、案外情に熱いところとか、とても素敵だ。
「私は、不正解だと思ってました。でも、先生が言うならきっとそうじゃないんですね。そういうかっこいい考え方できるところ、尊敬します」
心の底から出た言葉だった。
「先生、好きです」
……ちょっと出過ぎちゃったけれど。
先生は明らかに困っている。やってしまった、と思った。
「ちょっと、東野さん!」
先生の声が後ろから聞こえる。追いかけては来ないようだから安心した。先生も動揺しているのだろう。
私は女子トイレに入ると、息を整えた。相手にされるわけがなかったのに、お互い傷つくだけなのにどうして言ってしまったのだろう。気づけば私は涙を流していた。私しかいないトイレに鼻を啜る音が響く。それが更に虚しさを感じさせていた。
火曜の一番最後は私。先生とゆっくり話が出来ると思ったため、最後を希望したのだ。
「東野さんは、行きたい大学がしっかり決まってるし、特に問題はなさそうだね。模試の結果も順調に良くなってるからひとまず安心かな」
私は先生の目を見て頷いた。先生のおかげか、伸び悩んでいた数学の成績も良くなってきており、第一志望の大学に合格できる可能性も上がっている。
「先生のおかげです」
にこっと笑って言うと、先生の顔には嬉しそうな表情が浮かんだ。
「東野さんが頑張ってるから良くなったんだよ。でも、そう言ってもらえると教師としては凄く嬉しいよ」
私は先生に嬉しいと言ってもらえると嬉しい、と言ったら堂々巡りになってしまうだろう。だから、その言葉は胸の中にしまっておく。
「時間結構余っちゃったね。なんか相談とかある?」
腕時計を確認して先生が言った。面談開始からまだ十分しか経っていない。
相談というより先生に伝えたいことならある。
好きです。
直球なその四文字。だが、伝えたらきっと先生は困ってしまう。先生を困らせてしまうくらいなら気持ちを伝えたくない。
伝えたいけど、伝えたくない。最高に矛盾している気がした。
せっかくだから何か話そうと考えた結果、ある質問をしてみる気になった。物凄く意地が悪い質問だ。
「先生、質問いいですか?」
先生は、当たり前のように頷く。
「一人の女生徒が、ある男性教員を好きになってしまいました。ですが、その男性教員には恋人がいます。絶対に叶わない恋です。この恋は正解ですか? それとも、不正解ですか?」
先生を見ると、呆気に取られていた。まさかこんな質問をされるとは思わなかっただろう。私は女生徒のことも男性教員のことも詳しくは言っていない。だが、先生は気づいたはずだ。それが今の私の状況にそっくりだと。
しばらくの沈黙を挟んで、先生は口を開いた。
「……凄い質問だね。どう答えるべきなんだろう」
戸惑いつつ、真剣に考えてくれているみたいだ。
「んー、僕的にはどっちでもないと思うな。というか間をとって三角ぐらい。正解で丸にするのはまずいけど、不正解でばつにするのはもったいない。叶わなくたって恋から学ぶことはきっといくらでもあるはずなんだ」
そう言って、先生は眼鏡を人差し指で押し上げた。まっすぐな目をしている。私は改めて惚れ直した。何事にも真面目に取り組んでいる姿とか、案外情に熱いところとか、とても素敵だ。
「私は、不正解だと思ってました。でも、先生が言うならきっとそうじゃないんですね。そういうかっこいい考え方できるところ、尊敬します」
心の底から出た言葉だった。
「先生、好きです」
……ちょっと出過ぎちゃったけれど。
先生は明らかに困っている。やってしまった、と思った。
「ちょっと、東野さん!」
先生の声が後ろから聞こえる。追いかけては来ないようだから安心した。先生も動揺しているのだろう。
私は女子トイレに入ると、息を整えた。相手にされるわけがなかったのに、お互い傷つくだけなのにどうして言ってしまったのだろう。気づけば私は涙を流していた。私しかいないトイレに鼻を啜る音が響く。それが更に虚しさを感じさせていた。