飲み干したコーヒーの缶をゴミ箱に放り投げて、ドサッとソファに座った奏太。


そして静かに口を開いた。


「…自分を大切にしないから、振った」


「は?どういうこと?もっと分かりやすく言って」


「今までお前が関係を持った男たちはみんな避妊具を付けてくれてたけど、前田は違った。妻子持ちの既婚者のくせに、避妊しなかったんだってな」


なんでそれ、知ってんの?覚えてないけど。

怖いんだけど。普通に。


「それも、お前から外せと言ったとかなんとか。別に、既婚者じゃなくて、お前が本当に好きだと思った相手なら、浮気だとしても、別れればいいだけだからどうぞご自由にって思うけど」


別れればいいだけって、なに。
あたしって、元々好かれてないの?


「既婚者だぞ」


既婚者、既婚者って。
なんなのそのこだわり。


「子どもができましたって言っても捨てられるのは間違いなくお前。
堕ろしたとしても産んだとしても、苦しむのはお前だけ。
俺の子じゃないから育てようなんて思うわけないし、別れるだろうな。
どちらにせよお前が1人でずっと苦しむだけ」


「それで?」


奏太には迷惑かからないじゃん。
あたしが苦しむだけなんだから。


「そんな姿、誰が見たいと思うんだよ。俺は、お前が幸せなら別れたっていいと思うくらい好きなのに、なんでお前は、自分を大切にしない?」


は?
ちょっとどころか結構分からない。

結局、何が言いたいの?


「今だって、俺とか近くにいた人しか、お前のミスを知らないのに、なんでわざわざ処刑されに行く?
俺にだけ怒られればいいだろ。
今回の商品は熱狂的なファンもいて、何を言われるか、何をされるか分かったもんじゃない。
ちゃんと先まで読んで行動しろよ」


なんのために?


「それはつまり、自己中になれってことでいいんですかね?
あたしは馬鹿なんであなたの言うことがサッパリ分からない」


「だから」


ソファから立ち上がってずんずんと近付いて来た。


「お前がどう生きようが知ったこっちゃねーけど、妊娠して捨てられるとか、無駄に客に怒鳴られるなんてことになる前に、ちゃんと頭働かせて考えろって言ってんだよ」


「だから、なんのために?それこそあたしの勝手で、あんたには関係ないことでしょ?別れたんだから!」


「好きな女の苦しんでる顔を誰が好き好んで見るかって言ってんだよ!!別れたくて別れたならちゃんと幸せになれよ!この単細胞!ちょっとは考えろ!あほ!」


はぁ!?


「誰が別れたくて別れたって!?別れたかったのはあたしじゃなくて、あんたでしょ!?あたしはね、あんたが人の話も聞かずに怒ってるから仕方なく別れたんだよ!人のせいにしてんじゃないよ!」


「振られる覚悟でホイホイついて行ったんじゃねーのかよ!」


「覚えてないんだから知らないわよ!あたしはあんたのことがこの世で1番大好きで結婚するって決めてたのに!ふざけないでよ!」


「じゃあ結婚しろよ!作るなら俺との子どもを作れよクソ女!俺がどんな思いで前田を問い詰めたと思ってんだ」


「嫌いになった相手にそこまでするって馬鹿じゃないの!?」


「世界1好きだって何回言わせんだクソビッチ!嫌いな女を怒ってやるほど優しくねーよボケ」


「1回も聞いてないしハゲ!………え?」


「……………」



激しい口論のせいでお互い息が上がっている。

ちょっと、冷静に…なろうかな。