「…会社、やめるので…言ってもいいです」


ボロボロ泣いてるくせにちょっと強気な口調なのは何故。


「岩木さんも、飯島さんも、バレたらやめるって言ってたから、私もやめます」





あぁ、味方がいるからいいんだもん精神ね。


「そんなにいい人に見えたの?新人にリストを破らせるように提案する人間が」


山野さんがしゃくりあげる香織に向かって痛い一言を投げた。


「長くいれば取り寄せリストがどれだけ大事なものかって分かってくるけど、あれって何百人のお客様の個人情報が入ってんだよね。
売上云々じゃなくて信頼して情報預けてもらってんのに、それを破って捨てるって相当よ。
俺の想像でしかないから事実はどうか分かんないけどさ。
2人は冗談で言ったんじゃないの?冗談っていうか、まさかやらないよねっていうくらいの気持ちで。
それがまさかやるなんて、すごい馬鹿だねって笑われてるんじゃないのかね?
いくらこうちゃんに彼女ができたからって、30そこらの女が本気でヤキモチ妬くって、まずないと思うんだけど」


さっきはイライラしてたのが分かった山野さんだけど、今はなんかすごく落ち着いてる。

この人は私と2歳しか変わらないのに、なんていうか、大人というか。


「そういうこと、ちゃんと考えて信用したの?立場的に1番弱いのは真鍋さんなんだからさ、もっとこう、上手く付き合わないとこの先どこ行っても変わらないよ。

俺はあの2人がやめるとは思えない。岩木なんかは10年いるし、飯島だって5年はいる。今更転職しようなんて普通は思わない。
それに、破ったのは真鍋さんなんでしょ?
そしたら完全に真鍋さんだけが不利だって、思わなかった?」


落ち着いた口調で聞いてるけど、多分心の中では全力に罵倒してるんだろうな。

カタカタと震えながら、泣きながら、ポツリポツリと言葉を落とす香織。


「岩木さんと飯島さんは、いい人です。優しい人です。だから、信じてます」


「じゃあ連絡してみたら?バレました、やめましょうって」


山野さんに言われてスマホを取り出し、文章を打つ。

数分の沈黙の後、返信が来た。



すぐに画面を見た香織はふるふると震えて大粒の涙を流した。


「なんて?」


問いかける山野さんはどこか勝ち誇った表情をしている。


スッとスマホを差し出す香織と、それを覗き込む私たち。



どうやらグループLINEらしい。


香織『島田さんとか山野さんにあのことバレちゃいました。どうしたらいいですか?』


という問いかけに対して。


岩木『何がバレたの?』

飯島『あーあれね、実は逢坂が好きってやつね。いいじゃん、恋愛相談しなよ』

岩木『え?それ?違うよ、大食いって話でしょ?』

飯島『そっちか!別にいいじゃん!気にすんなって』



絶対分かってるくせに知らないふり。


「計画した文章とかは残ってないの?」


高木さんが横から入って来た。


「………っ………う……バレないように、…トーク履歴消してねって……何も、残ってないです…。ごめんなさい……本当にごめんなさい…………っ………うあぁぁ……」


一気に孤独になった香織は脇目も振らず泣き続けた。