居酒屋なのに誰1人としてお酒を頼まないという異様な光景。


今から何が始まるんですか。




「ねぇ…重いから誰か喋って…?」


いつまで経っても始まらないお話会にしびれを切らした高木さん。


「ほら、自分で言って」


静かに香織に指示したのは島田さんだ。

香織が何を喋るの?


サボってごめんなさいとかそんな感じ?


「…………」


でも香織は何も喋らない。
下を向いて縮こまっている。


なんなの?




みんなが香織を見つめて数十秒。

ふんぞり返っていた島田さんが机に腕を付いて香織の顔を覗き込みながら衝撃の言葉を発した。




「取り寄せリストを破って捨てたのを荒木ちゃんか逢坂のせいにしたかったって、なんで言わないの?」


「店長代理が激怒するのを分かってたから事前に有給取って遊んでましたって、自分の口から言いなよ」


「飯島さんと岩木さんと企画したって、楽しそうに話してたじゃん。そのテンションで話なよ」



なにそれ。

え、…は?


なに?

どういう意味?



「えっと、それどういう事なの?」


私と同じく訳が分からないという高木さん。
本当に訳分かんないよ。


「………なくて…」


すごい小さい声で言うから聞こえない。


「なに?」


横にいる島田さんにすら聞こえてない模様。


「……許せなくて」


「何が?」


島田さんのテンションが分からない。
どういう気持ちで隣にいるんだろう。

だって、付き合ってるんでしょ?


「迷惑しかかけない荒木さんが。
逢坂さんと付き合うなんて、許せなくて」


一気に思考がショートする。


「私の方が可愛いのに。なんで荒木さんなのって」


「それで?」


「……同じように思ってた岩木さんと飯島さんに取り寄せリストのこと聞いて。面白いと思って。荒木さんのせいになれば、逢坂さんも見限るだろうって…それなのに…」



「全く無関係の安井さんのせいになって大惨事だったよ。安井さんも呼ぼうか?同じように土下座したら許してくれんじゃない?あと、脳しんとうになって入院して、治ったら逢坂の連勤代わってやれば?」


何?付き合ってたんじゃないの?


「これを聞き出すために俺頑張ったんだから。嫌いな人間を抱くこと程胸くそ悪いものはないよ。早く謝って」


胸くそ悪いと言われた香織は明らかに傷付いた顔をした。


え、じゃあ付き合ってないの?
あの公開キスは?


話の1割も飲み込めていない私の手をそっと握ってくれたのは航だ。

航も知ってたの?
いつから?


「ねぇ、うざいんだけど。泣けば許してもらえると思ってんの?
俺、そんなに優しくないよ」


初めてだ。
島田さんの感情がちゃんと分かるの。


今、すごく怒ってて怖い。