「はい、もしもし」

「もしもし、思い出屋さんですか」

 女の子の声です。

ヨモギさんはしわがれた細い声でそうですよと答えました。

「あのね、ちいちゃんにパパの思い出の声を売ってほしいの」

 ヨモギさんは女の子の言葉にうんうんと頷いて、ごほんと一つ咳払いをしました。

そして……

「もしもしちいちゃん、元気にしているかい」

 突然、ヨモギさんの声が変わったのです。

さっきまでとは全然違う、おなかの底に響くような男の人の声でした。

「パパ!」

 女の子が嬉しそうに叫びます。

「ちいちゃん、ちゃんとママのいうことを聞いていい子にしているかな?」

「うん、パパ。今日もね、お皿洗い、ちいちゃんがお手伝いしたんだよ」

「そうかそうか、ちいちゃんは偉いなあ」

 そう、実はこのヨモギさん、『誰かの思い出の人の声をまねすることができる』という特別な魔法を持っているのでした。