「え、誰?」
「当ててみろよ」

俺は微笑み、真木綿さんを上から下まで観察した。

「ヒントは?」

優がわからなそうにきいてくる声が楽しくて、俺はわざと真木綿さんの名前を隠した。というか、今「真木綿さん」という単語を口にだしたら、彼女は確実にこちらを向き、電話をひったくってくるだろう。
どちらかというといつもアイツに困らされているのは俺の方な訳だから、たまにはこんな日があったっていいだろう。きっといいはずだ。

「全体的に黒い」
「ふんふん?」
「んで……全体的に、ヒラヒラしてる」
「え、なにそれ?キクラゲ?」

携帯を落とすか、というような勢いでよろけてしまった。
そのぐらい噴出した俺に真木綿さんは不審な目を向けながら「どうしたの?」と吐き捨てるように言った。いや、あなたのことですよ。

「魚介類となんで駅にいんだ俺は」
「あはは、てか今駅なの?」

すると、ホームに電車が滑り込んで来た。轟音が響き、熱風がワイシャツをハタハタと躍らせ、電話の奥からも不快な音が響いた。ん?


電話の奥?



振り返ると携帯を耳から離したまま、呆然と立ち尽くす優が居た。