「ね、口説いてんでしょ」
「あーキャラメルラテ飲みたい」
「聞いてるー!?」

商店街を抜け駅前の道に出るまで彼女の自惚れ発言は延々と続き、俺はというと突如芽生えたほろ苦い気持ちに何だかドトールのキャラメルラテを恋しく思っていた。

改札を通り抜け、後ろを振り向く。と、そこにいるはずの彼女がいない。慌てて周りを見渡し、物珍しそうに駅の構内を見ている彼女の腕を引いた。

「あんた、何フラフラしてんだよ」
「まゆう」
「は?」

売店から俺に視線を移した彼女は口の端を吊り上げ微笑む。

「あんたじゃないもん」
「あぁ、名前?」

深く頷いたマユウは俺の横を通り過ぎ、夕方のプラットホームへと降り立つ。人は少なく、無法地帯のようなその空気がマユウにとてつもなく不似合いで。

改めて、この子は何でここに来てしまったのだろうと考える。


「マユウは、優の何なの?」

俺が聞くと額の汗を拭ったオレンジの彼女が暑い、と一言呟いた。