「んで、今日は帰んの?優」
鞄を背負い、立ち上がりながら聞く。
「ノリんち泊まる」
「は?マジかよ。親いるけど」
見下げた優は行き場のないような目でまた空中を彷徨っている。本当に大丈夫かこいつ。そんな事を考えていたら急に視線を向けられ、思わずドキっとした。

優の目は何もかも通り抜ける力がありそうなほど鋭く、透き通っている。

そして、しばらく見詰め合う俺ら。男同士で見つめ合っても何も楽しい事なんてない、けれど彼の顔は本当に良く出来てるもんだなあと思った。

優は立ち上がり、俺より少し上の目線になると出来上がった顔で微笑んだ。

「俺マダムキラーだから、平気だよ?」
「はっ?」

完璧に面食らった。上ずった声が喉を通り抜けて鼻腔から抜ける。この自称マダムキラーめ。

「勝手に人んちの母ちゃん誘惑すんな」
「えー」


笑う優。
笑っている優を見ると異常なほど安心する。
本当に、変な意味じゃないのだけど。こいつはいつも崖っぷちにいるような緊張感を漂わせているから。だから、笑っている時の自然体な優はとても貴重で、個人的に好きだ。

俺は笑う優にとことん弱い。

「じゃあ来んの?」

ちらっと横目で確認した優は目をぱっと輝かせ頷いた。こいつなんか可愛いんだよ。一つ一つの動作が。