「ノリマキくん、今日はありがと」
「つかやめません?そのノリマキくんって」
「え?やだ?じゃあ優とまた今夜相談する」
「いい、やっぱいいです。そのままでいいです」
「うはは、じゃあおやすみ」

送りましょうか。と言ったのに真木綿さんは平気だよ、と何とも簡単に答えた。
まだこっちに来たばかりなのに、よく道を覚えられたなぁと考えていた。なのに段々とそんな事も、不思議とどうでも良くなってくる。
あれは彼女の魔法か、俺のO型の血のせいか。どっちにしても、真木綿さんとの買い物は楽しかった。そして、俺は彼女が優のために何を選んだのかを、まだ知らない。

ちょっとトイレに行った隙に、真木綿さんはもう買い物を終えていた。

「本当にもういいんですか?」
ときくと、
「うんもう買えた。ところで、明日もヒマ?ヒマヒマ?」
「なんか俺の一日だいたいヒマみたいな発言やめてもらえませんか」
「はい決定ー。今のひねくれ発言で乙女心崩壊したから強制ー」

真木綿さんはまた無理矢理、俺の腕を引っ張り、また無理矢理、俺を連れて行く。毎回毎回、彼女が前を歩くので、俺は毎回毎回、どこに行くかもわからずその白い腕を眺める。

調子が狂う。大げさだけど、俺が今まで生きてきてこんな人間に会ったのは初めてだ。
この世界にはバカみたいに人がいて、出会った人だって両足腕を使ったって数え切れないのに。

であったことがない、 こんな人知らない。

「ひまですけどね」

俺は呟いてまた笑った。自分が笑っているんだと気付いたのは、もっともっと後の事だったけど。


真木綿さんと別れた駅で、俺は一人、意味もなく、一つ電車を見送った。何だか乗ってしまいたくなかった。"今日”から、離れたくなかった。

明日に行ってしまったら二度とここには、今の俺たちと同じ場所には帰ってこられなくなってしまうから。