真木綿さんは4時を少し過ぎた頃に、笑顔で校門に現れた。もちろん服装は相変わらずの真っ黒さんで、夕日が不似合いったらない。

「ごめん、待たせて」

全然そうは思っていなそうな顔で、真木綿さんは俺の前に来たのと同時に、俺のワイシャツのすそを引っ張り、またもと来た道を戻り始めた。俺はというとそのゆるい力に抵抗することもなく素直に彼女に引っ張られ、駅方面に向かって真木綿さんの後ろを歩く。

「つきあってって、どこにですか?」
「んー?そのままの意味だよ。私と付き合って欲しい」
「は?だからどこに付き合うって……」
「もうバッカだなー付き合うって他にももっと使い方あるでしょ」

俺は歩く速度を変えず、真木綿さんはこちらを振り返らず、ただただ夕方の静かな時間が流れた。まるで秒針の速度までゆっくりになったような、そんな錯覚を起こしそうなほど世の中の音という音がエコーがかかって、えらく、遠く聞こえた瞬間だった。

少しだけ、何の理由もなく、今がずっと続けばと思い、すぐに我に返った。

「……で、どこに行くんですか?」

駅に到着し、電車に乗り込んだ瞬間に離れた真木綿さんの指を眺めながら、俺は聞いた。真木綿さんは苦笑し、ドア近くの手すりを掴む。電車がグンっとゆれ、加速を始めると一瞬よろけた真木綿さんが一呼吸置いて言った。

「優の誕生日、お祝いするから手伝って欲しかったんだ」
「優、誕生日なんすか?」
「うん、あさって。7月2日」