ピンポンパンポン
「1年D組、岡田優くん。今すぐ職員室、佐野のところまできてください。繰り返します・・・」

優は次のから揚げに箸を伸ばしながら担任の呼び出しに首を傾げる。不思議な事に彼自身は全く気付いていないようだが、俺には大方の予想がつく。最近の優の生活ぶりからすると、うん。昨日遅れて出したノートのことあたりだ。きっと慌てすぎてどこか抜けていたか、間違っていたか……とにかくたいしたことはない、余裕を持てば起きることのないミスだ。

優は毎回この落とし穴にひっかかる。決して足が遅いわけでも、遠回りしているわけでもないのに、それで時間をロスしてみんなよりゴールが遅れてしまう。それをどうしてか、本人は理解していない。いや、理解しようと、していない。

「あとのから揚げは放課後にしろ。とりあえず行ってこいよ」
「う〜ん、なんだろ」

頭をかきながら立ち上がった優はひらひらと手を振って人混みの中へ消えて行った。と、同時にマナー設定の携帯が机の上を移動する。手にしてみると画面には番号だけが表示されていて、相手が誰かもわからないまま通話ボタンを押した。

「もし……」
「よっノリマキくん!」

偶然視界に入った窓の鍵をじっと睨んで、考える。
俺のことをノリマキだなんてふざけた名前で呼ぶ人間は一人しかいない。そして、この全てのやる気をなくす可愛らしい声がなによりの証拠だった。優、から揚げはおあずけだ。

「真木綿さん……俺、番号教えましたっけ?」
「もちろん、優にきいたんだよー。あ、ちなみにアドレスも知ってるよ?」
「……で、何の用ですか?」
「うん、放課後つきあってー校門で待ってるから。4時ね。じゃ」
「はい?ちょ、何なんですか」
「あ、優にはナイショね」

ツーツー
一定に続く電子音に深いため息をつき、電話を切った。